副教材公開後初の全国模擬選挙
2015年8月、文部科学省・総務省による副教材の作成が進んでいた頃だった。長年、模擬選挙に携わっている「模擬選挙推進ネットワーク」事務局長の林大介氏(東洋大学助教)との18歳選挙権実現に向けた話合いの中で、副教材公開後の大阪府知事選・市長選(いわゆる「大阪ダブル選挙」)をきっかけとして模擬選挙への注目を集められないか、意見交換をした。その中で出てきたのが、大阪の選挙を題材にした模擬選挙を、大阪府内だけではなく、他自治体でも実施するアイデアだった。副教材公開後の国政選挙は2016年の参議院選挙のみで、「いきなり本番」となりかねない。その前に、「大阪都構想」など全国的にも注目を集める「大阪ダブル選挙」なら生徒も関心を持ってくれる可能性が高いのではと考えた。マニフェストスイッチを通して候補者の情報を集めた上で、その情報を実施したい教員に情報提供することで、模擬選挙をやりやすい環境づくりを整備する。他自治体の学校が実施するのなら、直接的な利害関係者ではないため、政治的中立性・公平性に過剰に配慮する必要はない。今回の実施に向けては、選挙の3か月前から大阪青年会議所など各主体と意見交換を進め臨んだ。
実施校の募集に当たっては、これまで模擬選挙を実践した教員への呼びかけを「模擬選挙推進ネットワーク」が、今回新規に企画に興味を持っていただき実施する学校集めを当研究所が行った。教員が模擬選挙の授業実施の準備をスムーズに進めやすいように、「模擬選挙推進ネットワーク」のノウハウなどもお借りし、実施イメージや授業指導案を提供。さらに原口氏のお力を借りて、1~3限の授業モデルや授業で使えるワーク集、府政や市政の学習資料なども用意した。実際の投票箱を使った投票以外にウェブ投票もできるように、「Yahoo!みんなの政治」にご協力いただいた。
今回の企画は、副教材公開後というタイミングもあり、企画の段階で読売新聞、毎日新聞が取り上げた。2015年10月19日には東京・早稲田大学で「模擬選挙ミニ勉強会」を開催し、模擬選挙に関心ある教員や学生など約15名が参加した。その様子をNHKが取り上げ、今回の企画に対する認知も広がっていった。「大阪ダブル選挙」の告示直前の11月2日には、大阪府でも「模擬選挙ミニ勉強会」を開催したが、大阪ということもあり教員、学生、選挙管理委員会など約30名が参加し、報道6社が取材に訪れた。関東圏、関西圏の県立高校への案内や、今回の企画を知って学校に呼びかけていただいた市議会議員の協力もあり、告示日時点で参加表明校は全国で24校に上った。しかし、学校長と現場の先生との意思疎通不足や準備不足、「生々しいテーマで模擬選挙を実施しないよう要請があった」という周囲の声に影響され、4校は実施をとりやめてしまった。模擬選挙の実施に当たり、教育現場が政治に対して持っているであろう忌避感を、こうした経過の中でわずかに感じた。
〈実施校〉全国 高校:16校、大学:4校
【青森県】青森中央学院大学
【東京都】都立高島高校、代々木高校(東京本部)、東洋大学
【大阪府】大阪府立旭高校(選択授業)、大阪府立北摂つばさ高校、クラーク記念国際高校(大阪梅田キャンパス)、大阪府立富田林高校、他高校5校/街頭投票(Kids Voting Osaka)
【兵庫県】神戸市立楠高校
【滋賀県】近江兄弟社高校
【奈良県】奈良文化高校
【岡山県】大学1校
【福岡県】久留米大学、久留米市立南筑高校
【熊本県】城北高校 ※12月には熊本県山鹿市立菊鹿中学校でも実施
※Kids Voting Osaka……関西近郊の高校生や大学生を中心としたメンバーで社会や政治に目を向けるきっかけをつくることを目的に設立。未成年者を対象に大阪府内で選挙期間中5日間に模擬投票を実施。投票所設置、街頭投票、ウェブ投票を実施し、1,069票(無効票7票)を収集した。