個々の問題点
●全体的な傾向/駆け込み支出
政務活動費は事前に使途金額が決まっていて交付されるものではなく、決まった金額を決まった時期に交付する制度であるため、1年単位で見た場合、年度末に過不足が生じることは当然あり得る。条例によると、不足があっても補充されることはないが、残額が生じた場合には、自治体に返還しなければならない。
執行部では、次年度以降の予算を削減されないようにするために、年度内に予算を使い切ろうとし、年度末に多額の支出をする傾向が見受けられる。この点、政務活動費の交付額は条例で規定されているので、直ちに翌年度に減額されるわけではないから、無理に使い切ろうとする必要はない。ところが、X議会における政務活動費の支出状況を月単位で見比べると、年度末の2、3月の支出が突出し、政務活動費の残額がゼロ円に限りなく近づき、さらにはマイナスにさえなる。
過去10年間、X議会の各会派・議員に交付された政務調査研究費(現・政務活動費)の金額及び残額ないし不足額を確認した。交付額総額に対する残額・不足額の割合(使い切り度)を見た。
A党では、使い切り度が1%を切っている年度が4回ある。平成16年度、平成17年度は交付金額が2,000万円を超えていたが、それでも100万円、200万円以上の不足額が出た。その後、不足額は減少傾向にあったものの、平成22年度は交付額が前年より500万円減少したことが影響してか150万円を超える不足額が出たが、その後不足額は減少傾向にあり、平成24年度は64万円以上の残額が出ている。
B党では、使い切り度が1%を切っている年度が2回ある。平成16年度から平成18年度は不足額が出ていたが、平成16年度と平成18年度は使い切り度が1%を切っている。その後は一転して残額が出るようになった。最も残額比率が高かったのは平成24年度の約21%である。
他の会派も使い切り度が1%を切っている。
個々の支出の中には合理的なものもあるであろうが、年度末の2、3月にどうしても必要だったと説明できる支出ばかりだったといえるか疑問である。
●領収証
条例では、領収証は原本を提出すべきこととしている。写しでよいとすると、同一の領収証の原本を二重に利用する不正を可能にしてしまうからである。議会が原本提出と規定したことは合理的である。しかし、これを潜脱する問題が生じている。
X議会では、市販の領収証の用紙に手書きしたものが依然として多い。これも原本に違いないが、日付、宛名、金額、ただし書などが全て手書きされているため、どのように書くこともできてしまい、記載内容の真実性が担保されていない。このような領収証しか発行していない飲食店などではやむを得ないが、領収証の発行者を見ると、電算処理したレシートや領収証を発行している(できる)はずの店舗名で、市販の領収証の用紙に手書きしたものがある。電算処理したレシートや領収証であれば、前後の会計処理と連動し、また、当該企業等の会計処理全体と連動しているので、特定の取引について日付、金額、品名などを恣意的に書き換えたり、つくり上げたりすることが困難であり、その記載内容の信用性は極めて高い。それをあえて回避するというのは不可解である。
宛名欄が空欄のものや、「上様」となっているものがある。これは特定の議員宛ての領収証とはいえず、政務活動費の支出として認めるべきではない。
ただし書が、「品代」「御品代」となっているものがある。これでは対象物が特定できないため、政務活動費の支出として認めるべきではない。
下三桁が「0」の領収証が散見されたが、参加費などは別として、消費税はつかないのだろうか。実際に取引があったか疑わしい。
「印刷代&郵送費」として印刷代と郵送費をまとめて1枚の領収証にしているものがあった。その後、会派の経理責任者が内訳明細を記載するようになったが、その内訳明細が正しいことを裏付ける証拠資料が添付されていない。印刷代と郵送費は支出項目が異なるので別の領収証とし、郵送費は郵便切手による郵送か宅配便などによるかで費用も主体も異なるので独自の領収証によるべきである。
●会議費
条例別表によれば、「会議費」として支出が認められるのは、政務活動のために必要な外部折衝に係る経費又は会費(このうち飲食費は、正当な理由があると認められる場合を除き、1人5,000円以内とする)であり、政党のパーティー又は飲食を主目的とした会議への支出は禁止されている。
会派や議員が会議室を借りて研究会、学習会、討論会などを開催することは有益である。その際に会場費や設備利用料などがかかるので、その費用を政務活動費で賄えるようにしようとしたものである。飲食代については条例によって著しく異なる。飲食代への支出を禁止する議会がある一方で、一定金額までならよしとしている議会もある。X議会は後者である。
実際の運用では、X議会では会議室を借りて研究会、学習会、討論会などを開催することに政務活動費はほとんど使われていない。
「会議費」の支出状況は、全く支出がない会派がある一方でかなりの支出をしている会派がある。多額の支出をしている会派でも、一部の議員が突出していて、他の議員はあまり支出していない。この差の原因は、選挙区内の諸団体の飲食を伴う集まり、典型的には新年会への出席度合いの差である。このような会合への顔出しは議員の選挙活動的意味合いを持っているだけに、その参加費を政務活動費から支出するのは問題である。
「会議費」の支出は、議員個人の判断で抑制できる場合もあるであろうし、酒食を伴う場合について政務活動費からの支出を禁止するべきではないだろうか。
これとは別に、議員が政務活動費で他人の飲食代まで払っているものが散見される。公職選挙法では「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。……)は、当該選挙区……内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない」(199条の2第1項)と規定しており、違反については罰則規定(249条の2)もある。実務では、食事代の提供も寄附禁止の例外にはならないという解釈運用がなされている。当該議員とともに飲食した他者が選挙区の住民だとすると、上記公職選挙法違反の問題が生じる。
●視察・研修費
条例別表によれば、「視察・研修費」として支出が認められるのは、視察、研修会又は報告会に係る経費(講師又は協力者への謝礼を含む)である。所属政党の研修会又は大会への支出は禁止されている。
視察・研修の具体的内容や成果が不明のものが多い。議会活動に具体的に反映されているのであれば、それを具体的に摘示すべきである。そうすることによって、「視察・研修費」の支出が効果的だったかどうかが分かりやすくなる。
遠方の自治体への視察は、テーマによっては自治体にとっても有意義であろうが、当該自治体の行政との関係いかん、事前にどれほどの資料調査、訪問先に対する対応者や質問事項の確認などをしているのか不明である。整理票で活動内容をある程度説明している会派がある。説明がない会派に比べればマシであるが、具体的な内容は不明である。
手土産代を政務活動費から支出している会派がある。このようなものが視察・研修費に含まれるか疑問である。帰りに買う手土産についてはより一層、疑問である。
●通信費
条例別表によれば、「通信費」として支出が認められるのは、会派に関するものとして、固定電話、携帯電話、ファクシミリ、インターネット、郵便、宅配便等に係る経費があり、 議員に関するものとして、2回線以上保有する固定電話のうち議員活動専用に使用する旨を議長に届け出ている1回線に係る経費及びインターネットに係る経費である。
切手の大量購入が散見される。大量購入した切手は金券ショップで換金できるだけに、本当に郵送に使われているかどうかが問題になる。
郵便局で大量購入したものもあるが、株式会社や米屋、指定売りさばき人からの大量購入も多数ある。そこでは、何円の切手を何枚購入したかが不明のもの、さらには、何を購入したか不明のものさえある。使途もほとんど不明である。
80円切手を大量購入して書類送付に使った旨の説明があるものもあったが、A4判用紙12枚を送付したというものについては、宅配便業者のサービスを利用すれば80円で可能だが切手は使えず、郵送であれば140円切手が必要である。説明になっていない。
領収証には「はがき」とあるのに、「会計整理票」には「郵券」に「○」(チェック)が付いているものがあった。
郵便局から通常切手、記念切手を繰り返し大量に購入している場合もあるが、これらが何に使われたかが不明である。
電子メールやファックス、電話での連絡が多くなり、また、民間事業者による廉価の配達が当たり前になっている今日、郵便切手を使って郵送する場面はかなり少なくなっている。また、大量の郵便物は料金別納制度を利用するのが簡便であり、実際的である。
郵送費を安くすませるために、「郵便区内特別郵便物制度」(同一差出人から差し出される定形郵便物又は定形外郵便物で、同時に100通以上差し出す等の条件を満たし、同一の郵便区内のみでその引受け及び配達を行う郵便物を、割安な料金で届ける)を利用している議員もいる。このような制度が使えるのであれば、できるだけ使うべきである。
●印刷費
条例別表によれば、「印刷費」として支出が認められるのは、政務活動報告書その他政務活動に必要な資料の複写又は印刷に係る経費である。
「印刷費」も、会派によってかなり金額に差がある。通信の発行回数、紙質、レイアウト、デザインなどが影響している面があるであろう。確かに上質紙で、レイアウト、デザインをよくした方が住民の目を引き、読んでもらいやすいといえるであろう。しかし、伝える情報の内容こそ重視すべきであり、体裁面にばかり費用をかけるのは本末転倒である。
逆に、作成にほとんど費用をかけていないと思われる会派ニュースの作成費が明らかに高額すぎるものも見受けられた。
住民アンケートを実施した会派があるが、質問項目に地域的な特性ないし具体性を欠いている印象を受ける。その結果ないし成果が添付されていない。これではアンケートが主目的だったとはいえない。議員や会派(政党)の宣伝が主目的だった疑いがある。
●図書・資料費
条例別表によれば、「図書・資料費」として支出が認められるのは、新聞、書籍、資料、電磁的記録媒体等の購入に係る経費であり、所属政党が発行する新聞代への支出は禁止されている。
政務活動費の月額が低い議会では高額書籍(1冊数万円)の購入はないであろうが、月額15万円もあるX議会ではこれが可能である。高額書籍を政務活動費で購入し、私物として転売し、その代金を自分のものにすることが可能になるという問題がある。
議員が議会活動のために購入したと思われる書籍が比較的多いが、X議会の活動に有益であれば、議会として購入すべきである。議会として購入する手続が煩雑であることが、議員個人として購入する動機だとすれば、それは購入手続を改善すればすむことである。
公立図書館などにある書籍は、そこで必要なページをコピーすればすむことである。研究者も実務家も行政実務もそのようにしている。議員も同様であるべきである。
週刊誌など読み捨ての雑誌は個人のポケットマネーで購入すべきで、政務活動費によるべきではない。このような観点からすると、購入しなくてよい図書がかなりあると考えられる。