「投票率低下」が意味するもの
明るい選挙推進協会がまとめた地方選挙における投票率推移のデータがあります。それを見ると、投票率は1951年以降右肩下がりで推移しています。2015年4月の選挙では、投票率は50%を割ったところも多数あったようです。今後、投票率は新しい有権者が登場し、少なくとも一度は上がるかもしれません。それ以降はまた同じように右肩下がりに転じるという予感がしています。
“投票率が下がる”ということは何を意味するのか、それが次の問題です。有権者30万人のある自治体をご紹介します。今回2015年の統一地方選挙の投票率は43%でした。そうすると、30万人の投票有権者の中で、実際に投票した人は13万人になります。この自治体の議員定数は15人で、これに対して今回17人の候補者が立ちました。つまり2人が落選ということになります。候補者の中で最高の得票数をとった方は9,371票でした。これを選挙に行かなかった有権者を含む全体の数で割ると絶対得票率が出ますが、これはわずか3.1%です。最低得票数で当選された方は6,516票、絶対得票率はわずか2.2%になります。もうひとつ、相対投票率というのがあります。これは当日投票した有権者の実数で得票数を割るものです。これで見ますと投票者数13万人でしたから、最高得票数をとった人の比率は7.2%、最低得票数で当選した人の割合は5.0%になります。
つまり問題は、絶対得票率2.2%しか獲得していない人が議員として活躍されるわけですが、果たしてそれで民主政治の正当性はあるのかどうかということです。新聞などの報道を見ていても、「こんなに少ない数で議員が通るというのはおかしい」、「民意を代表しているとは到底いえない」という意見や、「この数字は民主制の質の低下を表す指数ではないか」という意見もあります。
ただ、アメリカの市議会選挙を見ますと、様相はさらにひどくなります。投票率だけを見ると、2001年は25.6%、2011年には20.9%です。日本をはるかに下回る投票率、それがアメリカの市議会選挙です。では、これだけ投票率が低いと、アメリカの地方政治では一体どういうことが起こるのでしょうか。ひとつには再選が非常に多くなります。現職が再選を重ねる事例が増えます。住民が市議会選挙に関心がないので、議員は再選を重ねるというのが一般的な傾向です。日本でも、市議会議員の皆さんの平均年齢は、現在59歳です。この平均年齢は、今後一層、上昇することが憂慮されます。議員の間でも高齢化が進むというのは、これからの地方政治を形づくる大きなシナリオだと思います。
議員報酬の見直しで、投票率向上を
投票率を上げる方法はあるのかについて考えてみます。ひとつは、投票を義務化することです。義務投票制を採用しているのは、オーストラリア、シンガポールが代表的ですが、これらの国では罰則が厳しくなっています。オーストラリアは罰金、シンガポールは選挙人名簿から名前を削除するという制度を設けています。
一方、比較的緩い規制を敷いているのが、ブラジル、アルゼンチン、チリ、メキシコです。イタリア、タイ、フィリピンは、投票は義務ですが罰則はありません。いずれにしても罰則を科すとオーストラリア、シンガポールは投票率がともに93%、緩い規制のブラジルでも82%、イタリアでは72%です。これらの例を見る限り、日本でも投票に何らかの義務を課すと、投票率は上がるだろうと思います。
もうひとつ、これは議員の皆さんから批判が出るかもしれません。投票率を上げるために、得票数に議員報酬を連動させるという方法があります。例えば、1票を20円とします。すると、9,000票とった人の報酬は18万円になります。反対に1,000票で当選した人は、2万円の報酬にとどまるかもしれません。また、当選した人の得票数を全部集めます。その上で総得票数を上・中・下に三分します。得票数が上位の議員は40万円、中の人には30万円、下の人には20万円の報酬を与える。この方法をとると、間違いなく投票率は上がると思います。これは、荒唐無稽なやり方と考える方がいるかもしれません。しかし、現行の法制度でできる手法です。議員報酬は、地方自治法203条によれば、条例で決めることになっています。かつては、懲罰を受けた議員の報酬を減額するという条例をつくった自治体もあります。
こうしたことをすでにやっている議会があります。長崎県の小値賀町という、人口が2,654人の小さな町です。町の議員報酬特例条例で、50歳以下は30万円、50歳以上は18万円と規定し、今年(2015年)の3月から施行しています。これは、若い人々に議会選挙への出馬を促すために考えられた仕組みです。年収を上げ、所得保障することによって、議員になりたいという若い人々を確保しようとするのが、この方法のねらいになっています。こういった取組が今後増えれば、投票率は上がるだろうと思います。