元所沢市議会議員 木田 弥
熊本県八代市の市庁舎建設をめぐる6期目の市議会議員が関わった贈収賄事件がクローズアップされたので、改めて期数を重ね、権勢を振るうボス化した議員の対処方法について私が経験してきた事例をもとにお伝えします。
期数を重ねた議員の得票最大化ビジネスモデル
議員も当選当初は世襲議員でもない限り、右も左も分からない状況ですが、期数を重ねるごとに、どのような議員活動が得票活動に有効なのかが見えてきます。自分なりの得票ビジネスモデルが確立されていき、最小の努力で最大の得票が挙げられるようになってきます。
同僚だったA市議会議員の場合、新規マンション建設に伴う周辺住民の不満を足がかりに、せっせと票と小銭を稼いでいたようでした。からくりはこうです。まず新規マンション建設案件が持ち上がると、日照問題などで周辺住民から不満が起こります。マンション建設業者と直接交渉しようとしてもうまくいきません。役所に介入してもらおうとしても、そもそも建設計画自体に法的に問題があるわけではないので、あまり真剣に相手にしてもらえません。特に、東京都国立市が平成18年に最高裁で敗訴したいわゆる「国立マンション訴訟」以来、さらにその姿勢はかたくなになっています。役所にしてみれば、新規マンションが建設されれば、固定資産税や住民税、そして水道利用加入金や下水道事業受益者負担金が増収となるなど短期的にはいいことずくめです。
そういう事情もあってか、役所から邪険にされたマンション建設に反対する周辺住民の中から、議員に仲介してもらおうという話が沸き起こってきます。マンション問題については、実績のあるA議員に頼もうという声も上がります。マンション建設に反対する周辺住民に対しては、議会にマンション建設による悪影響への対処を求める請願を提出するよう促します。A議員本人はマンション建設に関係する常任委員会の委員であり、紹介議員となることは遠慮することになっているので、自会派、及び他会派の議員に紹介議員となることを依頼します。依頼された議員は、「また始まったか、しようがないなあ」という感覚ですが、周辺住民やA議員に逆恨みされるのも面倒なので引き受けます。請願は委員会で審査されることになります。
そこからA議員の独り舞台が始まります。まず、周辺住民に対しては、要求はすべて通らないが、階数を減らす、あるいは上層階の面積を減らすなどの対応を取り付けると約束します。請願を審査する委員会では、内容を精査する必要があるので、継続審査にするべきとA議員が主張。継続審査に持ち込みます。その上で、マンション建設業者側に接触。A議員は、建設業者に対して、常任委員会でも継続審査になった、住民に対してこういう条件で説得するから、階数削減や上層階の面積削減などの対応をすべきと説得します。業者側もその辺のからくりはよく分かっていて、建設段階では容積率や建ぺい率を目いっぱい活用して設計してありますので、若干の計画修正は織り込み済みのようです。
むしろ、周辺住民の反対運動が激化して収まりがつかなくなると、建設予定地近くに設置するモデルルーム周辺に、建設反対のむしろ旗が立ってしまいます。マンション購入希望者の中には、そういうむしろ旗が立っていると、自分たちは歓迎されていないのか、住み始めたら何かと嫌がらせを受けるのではないかと過剰な心配をしてしまい、購入を躊躇(ちゅうちょ)する人も出てきます。マンション建設業者は、基本的に融資を受けて建設しているので、完売時期が遅れれば、それだけモデルルームの撤収も遅れるなど販売コストがかさみます。なるべく多い戸数で売り出す方が収益は大きくなりますが、一定数販売戸数を減らしても、完売が遅れることによるコスト増を計算してトータルの収益最大化が図られるようであれば、A議員から提案のあった一定程度の設計変更に応じます。
そうした話し合いを経て、A議員若しくは行政から、「マンション建設業者から、周辺住民の要望に一定程度配慮した設計変更がなされた」と報告があり、継続審査となっていた請願は当初の目的を達成したので、採択されることなく取り下げられます。
周辺住民の中には、「マンション建設そのものを取りやめさせたい」という人もいますが、ほとんどの住民は、建設計画が変更されたことで留飲を下げます。そして、次の選挙ではお世話になったA議員に恩返しをしなくてはいけないという住民も出てきます。こうした一連のプロセスを経て、次期選挙の得票上積みがなされます。
また、建設業者から、言葉以上の具体的な謝意がなされているとの専らのうわさでした。具体的な謝意がなされたとしても、議員の場合は、贈収賄罪の構成要件には該当しにくいという事情があります。議員の職務権限が明確でないからです。そもそもマンション建設に関わる請願の採択、不採択は法的には実効性はありません。実際、請願審査が議会で議題として登録されれば目的はほぼ達成です。逆に、請願が採択されてしまうと、執行部としても対処のしようがないので困ってしまいます。お化けは出るまでが一番怖いのであって、本当に出てしまえばそこでおしまいです。また、議員の政治団体への寄附金であれば、請願に関わる議員の政治姿勢に共鳴したため応援した、ということで説明がつきます。
厳密に解釈すれば、贈収賄罪として立件も可能なのかもしれませんが、公判を維持できるだけの証拠集めの労力に比べ、金額的にもそれほど大きくありませんし、いわゆる「さんずい」事件担当の捜査二課もそこまで暇ではないので、情報収集はしますが、事件化には至らないといったところでしょう。
A議員は、議員の任期中、ずっと建設に関わる常任委員会に所属していました。もっともA議員の場合は、リベラル系の会派所属であったために、ボス化までには至ってはいませんでした。
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