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2026.02.25 政策研究

生活保護行政の転換点──地域から始まる変革の芽

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明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授 大山典宏

福祉事務所の人権侵害はなぜ起きるのか

 前回(2026年2月10日号)は、桐生市事件をはじめとする「権利侵害」の構造を概観しました。今回は、なぜ福祉事務所でこのような人権侵害が繰り返されるのか、その根本原因をもう一段踏み込んで整理します。
 福祉事務所での不適切対応が続く背景には、第1に「申請主義」という行政の慣行があります。役所側は「本人からいってこない限り、特別の支援はしない」という姿勢を長く続けてきました。その結果、職員の考え方が固定化し、利用者の権利よりも“形式的な手続”を優先する文化が根づく背景となりました。
 第2に、生活保護行政を担う現場の能力・経験の不均質さも無視できません。生活保護制度は複雑で、加算、減額、扶助項目などの生活保護費の決定を適切に行うためには専門性が求められます。しかし、多くの自治体では担当者が頻繁に異動し、知識や経験が蓄積しにくい体制にあります。これが「知らない」、「気づけなかった」といった事務的誤りを誘発しやすい状況をつくり出してきました。
 第3に、現場の疲弊があります。担当者が抱える案件数は全国的に増加しており、中には依存症や精神疾患など、対応する職員に専門性が求められる困難事例が少なくありません。専門性が不十分な状態では、利用者の行動や言動を否定的に受け取る“偏見や差別”が生じやすくなります。桐生市で見られたような暴言や威圧的対応は、こうした疲弊が組織的に積み重なった結果ともいえます。
 最後に、外部監査の限界も指摘されます。厚生労働省は2025年度から「権利侵害の防止」を監査方針の第一に掲げましたが、これまで不正受給対策を重視してきたため、「漏給(本来支給されるべき公的給付が、手続や判断の誤りなどにより支給されないこと)」への視点は十分とはいえませんでした。都道府県による指導監査が機能せず、同じ不適切対応が何年も繰り返されてきた実態は、その象徴といえます。
 以上のように、福祉事務所が抱える問題は、個々の職員の資質に還元できるものではなく、制度運用、組織文化、人員体制、監査の仕組みなど、複合的な要因が絡み合って生まれています。今回は、こうした構造を変える力となり得る動きを、各地の事例を通じて考えていきます。

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大山典宏(明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授)

この記事の著者

大山典宏(明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授)

1974年生まれ。専門は、社会福祉政策・公的扶助論。社会福祉士、精神保健福祉士。立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科博士後期課程修了(コミュニティ福祉学博士)。志木市役所職員、埼玉県庁職員、高千穂大学准教授、同教授を経て現職。杉並区子ども・子育て会議会長、内閣府子どもの貧困対策に関する検討会構成員(オブザーバー)など、貧困問題の専門家として幅広い活動を続けている。著書に、『精選生活保護運用実例集』(編著・第一法規出版)、『生活保護vsワーキングプア』『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)、『隠された貧困』(扶桑社新書)など。

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