東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
はじめに
2006年6月に、いわゆる夕張ショックが、新聞報道によって表面化した(1)。「炭鉱から観光へ」を標語に、炭鉱閉山後の地域振興のために、夕張市は積極的な観光開発政策を展開した。しかし、民間の観光事業の採算がとれたわけではない。そのために、「第二の閉山」を呼ばれる状況に直面する。観光事業撤退は地域衰亡を意味するから、観光事業を支えるために市が財政負担を負うことになる。そのために、市の財政問題が深刻化していった。市財政の維持の観点からは、早期の「損切り」が必要だったかもしれないが、それは「第三の閉山」を意味するから、政策的に決定することは困難である。そもそも、市政が早期「損切り」ができるぐらいであるならば、観光事業撤退の段階で、市政が支援をしないことができたであろう。
こうして、市財政は自転車操業に追い込まれ、いわゆる「一時借入金のジャンプ」を繰り返すことになる。一時借入金は、年度内に借入れして年度内に返済するので、年度予算上は相殺される。しかし、自治体の会計年度は、出納整理期間という重複がある。そこで、出納整理期間(t+1年4~5月、t年度であるとともにt+1年度でもある)において、t+1年度の一時借入金で、t年度の一時借入金の返済を行うことができる。こうしてt年度は、一時借入金は年度内返済がなされる。このときに生じたt+1年度の一時借入金は、t+1年度内に返済しなければならない。当然ながら、t+1年度内の歳入から充てられる返済資金はない。そこで、t+2年度(t+2年4~5月)の一時借入金で現金を調達して、t+1年度分の返済を行う。このように一時借入金の年度をまたがるやりくり(「ジャンプ」)を行えば、永遠に資金調達できるように見える。
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