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2018.10.25

第10回 統一地方選前に住民の手で公開討論会の開催を!〜自治を実践する浦安市と小平市、流山市の住民たち〜

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地方自治ジャーナリスト 相川俊英

地方議員の2つの面でのなり手不足

 統一地方選挙が来年4月に迫るにつれ、地方議員のなり手不足が大きな社会問題になりつつある。現状を憂い、早急に打開策を講じるべきと主張する専門家も少なくない。しかし、自治体関係者などの間で白熱化する議論に違和感を抱かざるを得ない。彼らの多くが、なり手不足問題の本質にあえて目を伏せたまま論じているように思えてならないからだ。
 地方議員のなり手不足には量と質の2つの側面があり、さらに、都市部と非都市部とで事態は大きく異なる。現在、論議の俎上(そじょう)に載せられているのは、専ら非都市部の地方議会におけるなり手不足についてのみ。議員活動を担える住民の絶対数そのものが激減し、量と質の両面でなり手不足に直面しているケースである。こうした地域では議員定数を上回る立候補者は現れにくく、無投票選挙が半ば常態化している。つまり、非都市部では地方議員のなり手不足が誰の目にも見える形となっている。
 これに対し、都市部では抱える問題の本質が見えにくい。議員定数の多い都市部で地方議会議員選挙が無投票となるケースなどめったにない。それどころか、高額な議員報酬に引かれてか、定数を大幅に上回る候補者が出現し、一見、にぎやかな選挙になるのが通例だ。そうした都市部の住民にすれば、地方議員のなり手不足といわれても他人事でしかない。
 しかし、都市部も例外ではなく、むしろ、より深刻な事態に陥っている。量の面ではなく、質の面でのなり手不足が急速に進んでいるからだ。それは、議員の役割をきちんと果たせるような住民が激減したという意味ではない。都市部では議員にふさわしい人がなかなか立候補しない、ないしは立候補しても当選しにくい負のスパイラル現象が進行している。それは、選挙が本来の機能を発揮しにくくなっていることに起因するが、選挙の機能低下は有権者の選ぶ力の低下ではなく、別の要因によってもたらされたとみるべきだ。ゆがんだ選挙制度である。

有権者軽視の公職選挙法が有権者の選挙離れと議員の劣化を加速させた

 選挙で最も重要なのが、有権者にきちんとした判断材料が提示されることだ。各候補者の政見や人となりなどが分からなければ、有権者は自信をもって自らの一票を行使できないからだ。選挙は選ぶ側に十分な情報が提示されて初めて、成立する。そのためにこそ選挙運動が行われるのであり、何よりもそれを担保する選挙制度でなければならない。ところが、実態はそうなっていない。選挙運動が法の規制でがんじがらめにされ、最も重要な候補者情報が遮断されている。やってはならないことばかりで、選挙本来の機能をかえって阻害させるいびつな選挙制度となっているのである。
 日本の公職選挙法は有権者に十分な判断材料を提示するものとはなっていない。戸別訪問は禁止となっており、戦後、実施されていた立会演説会(国会議員選と知事選は義務制、市町村長選と都道府県議選、政令市議選は任意制)も、1983年に議員提案による法改正で廃止された。さらに選挙運動期間の短縮(例えば、市区議選は7日間)やビラ配布の制限、街頭演説での規制など、選挙運動に様々な制限が課せられている。公営選挙としてポスター代や選挙カー費用、選挙公報や政見放送などに税金が支出されているが、それらが有権者にとって真に必要な情報の提供につながっているとはいえず、むしろ、逆ではないか。有権者は選ぶに選べない状況に置かれている。
 中でも深刻なのが、大勢の候補が並ぶ都市部の市区議会議員選挙である。有権者はまるで中身の分からない、見えない商品を目の前にずらりと並べられ、その中から1つ選べとせき立てられるようなものだ。有権者は仕方なく、包み紙がきれいな商品や売り子の連呼で聞き覚えた商品名を選ぶか、ないしは黙って売り場から立ち去るしかないのである。
 総務省などが前回(2015年)の統一地方選挙後に全国の有権者を対象に意識調査を行った。その中に注目すべき項目があった。「候補者の人物や政見がよく分からないために、誰に投票したらよいか決めるのに困ると感じたことがありますか」との設問に対し、過半数を超える53.4%もの人が「ある」と回答したのである。1991年ぐらいまでは「ある」との回答は30%台前半だったので、激増したことになる。
 さらに興味深いのが、選挙別の回答だ。候補者情報の不足は「道府県議選」が最も多く、64.6%。次いで市区町村議選が59.6%。知事選や市区町村長選はいずれも3割台前半と低く、地方議員選挙での情報不足がより深刻化している。有権者が中身を十分に吟味できない状態で議員を選ばざるを得なくなっているのである。そうした選挙で選ばれた人たちが、果たして、議員本来の役割をきちんと果たせるものだろうか。選挙制度のゆがみが議員のなり手不足(量と質の両面)を生み、有権者の政治・選挙離れをもたらしているのである。では、こうした負のスパイラルから抜け出すにはどうしたらよいのだろうか。

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相川俊英(地方自治ジャーナリスト)

この記事の著者

相川俊英(地方自治ジャーナリスト)

地方自治ジャーナリスト。1956年群馬県生まれ。地方自治の取材を四半世紀以上にわたって続ける。2019年7月に「議員NAVI」にて連載中の「自治の担い手の再生」を加筆してまとめた『自治体職員のための住民と共につくる自治のかたち』(第一法規)を出版。この他に、『地方議会を再生する』(集英社新書、2017年)『奇跡の村 地方は人で再生する』(集英社新書、2015年)『反骨の市町村 国に頼るからバカを見る』(講談社、2015年)など多数。

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