山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
今回の論点:政務活動費・議会図書室の充実を議会力アップに!
新たな議会を創造するための条件整備を考えている。今回は、政務活動費(以下「政活費」という)と議会図書室について検討する。第二報酬と揶揄(やゆ)されることもあった政務調査費は、地方分権一括法とほぼ同時に制度化された。その後、地方自治法の改正により、政活費に名称が変更されている(2013年3月施行)。
政活費の不正使用について、兵庫県議会議員の号泣記者会見をはじめとして、議員の不祥事が多数報道されている。富山市議会では、政活費の不正使用が発覚し、「ドミノ」とも揶揄される議員辞職が相次いだ。偽装や組織的な不正といった極めて悪質なものもある(チューリップテレビ取材班 2017)。議員辞職は当然だが、それで決着させるわけにはいかない。辞職した富山市議員の弁明を聞くと、まさにセイカツ費(政活費=「生活費」)になっている現実が見える。しかし、それぞれの議会・議員は、これらの不祥事を新しい議会を創り出す、あるいはさらに発展させる「神が与えたチャンス」(北川正恭)、千載一遇の機会として捉えるべきである。
政活費を考える場合、議員の質の低下論に陥ってはならない。分権前のかつての議会は、安定した議会運営を行っていたとしても、中央集権制下のものであった。地方分権時代の地域経営の自由度が高まった議会とは、量的にも質的にも大きく異なるものである。意図していないにせよ、過去の議会が良かったから昔に戻れという議論は無謀である(ただし、自由な雰囲気の議会運営などは参考にすべきである)。
なお、地方議会全体として政活費を検討する際に難しいことは、その交付条例が制定されていない議会もあれば、制定されていても月額約55万円の議会もあり(横浜市会)、また、交付額が約1万円以下の議会もある(町村議会の平均は約9,500円)といったように、各議会でバラバラであることである。
議会の監視能力や政策提言能力を向上させるためには、議員報酬、議会事務局、そして政活費とともに、議会図書室の充実が不可欠である。今回は、政活費と議会図書室の現状と課題について検討したい。
① 政活費の現状と考える視点を確認する。
② 政活費の不正使用が生じる原因と打開の方途を考える。
③ 政活費を議会改革の第2ステージに活用するための手法を考える。
④ 住民自治を進めるための議会図書室の新しい役割とそれを充実させる手法を考える。
1 政活費の現状と考える視点
(1)政活費の現状
① 政活費をめぐる法改正
政活費の前身の政務調査費が条例で定めれば支給できるようになったのは2000年。地方分権一括法施行の年である。いうなれば地方分権改革の申し子である。条例、予算・決算などに関わる地域経営の重要な権限は議会にある。その役割を担うには監視・政策提言機能の強化が不可欠であり、それを作動させる道具の1つが政務調査費だった(1)。その後、使い勝手が悪いという声に押されて、充当可能対象範囲が広がり、「上京しての陳情」や住民との会合もその使途に含めることができるようになっている。
〔参考〕地方自治法100条
⑭ 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
⑮ 前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
⑯ 議長は、第十四項の政務活動費については、その使途の透明性の確保に努めるものとする。
政務調査費と政活費の相違は、図1のようなものである。政務調査費は交付に当たって条例で定めることになり、報告義務があった。政活費は条例で定めることは同様であるが、政活費を充てることができる「経費の範囲」を広げた。要請陳情活動、住民意見聴取、会派の会議にも活用できることになっている。同時に、透明性を確保するための議長の責務が明記された。
全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会(三議長会)は、それぞれ「政務活動費の交付に関する条例(例)」、「会派に交付する政務活動に要する経費」、「議員に交付する政務活動に要する経費」、「政務活動費の交付に関する規程(例)」等を発表している(会派・議員に交付する政務活動に要する経費については後掲資料参照)。
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