山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
今回の論点:新たな議会事務局の役割、担い手とその活動、そしてそれらを保障する制度を考える
新しい議会を作動させるためには、議会事務局の充実・強化が不可欠である。今日、議会事務局の役割は大きく変わってきた。議会・議員の支援、具体的には議会の監視・政策提言機能を強化するために、議事・総務の役割も現状から進化しなければならないだけではなく、新たに政策法務・政策財務において役割を果たすことも重要となっている。他方で、従来はあまり意識されていなかったが、二元的代表制を作動させるには、住民及び行政と議会・議員との調整が重要となる。つまり、従来の議会における事務局職員の役割の拡大強化に加え、住民や行政との調整という新たな役割が求められている。これらの役割を主題的に意識し、果たしていくためにそのルール化・制度化が求められている。住民、議会・議員、首長等との距離を問い、透明なルール・制度が、議会事務局職員の積極性や意欲を継続的なものとし、その活動を保障する。
新たな議会事務局の役割、担い手とその活動、そしてそれらを保障する制度を考えたい。
① 議会事務局に議会の支援、そして機関競争主義を作動させる使命があることを踏まえて、議会の「補助機関」ではあるが、現在の議会だけではなく将来の議会を見据える必要があることを確認する。
② 議会の支援(議事・総務・政策法務)だけではなく、議会事務局が主体的に動き出すこと、住民との連携、首長等との連携など、議会に位置しながらも住民・首長等をつなぐ要としての議会事務局の役割を確認する。
③ 議会事務局本体の充実とともに、議会事務局機能として捉えて、住民・NPO等との連携の模索などを議論する。
④ これらを担うために、従来の設置条例・定数条例の充実だけではなく、採用基準(議長のリーダーシップは前提)、議会事務局職員の行動規範・指針の策定(議長・議員や執行機関職員の議会事務局職員に対する行動規範・指針)の必要性を確認し模索する。
1 議会事務局をめぐる新たな動向
(1)新たな議会事務局論の必要性
議会事務局に変化が生じている。まず、近年、議会事務局についての、また議会事務局職員による研究会が少なくとも3つ設置されたことである(1)。議会事務局職員、行政職員、議員、研究者などによる「議会事務局研究会」、議会事務局職員を中心に政策法務を念頭に実務に専念し、議会・議員の要請に機敏かつ的確に対応できる準備を行う「議会事務局実務研究会」、都道府県レベルの市議会議長会が設置し、議員や議会事務局職員が参加する「いわて議会事務局研究会」である。これらは情報交換・研修の場の設定だけではなく、新たな議会事務局像も模索している。
もう1つは、“議会局”が設置されるようになったことである。神奈川県議会、川崎市議会、横浜市会だけではなく、最近では、指定都市になった相模原市議会や中核市である滋賀県大津市議会も議会局を設置した。そこには「事務(庶務)だけを担うわけではない」という強い意思が示されている。
これらの動向を考慮すれば、“議会事務局”が議会改革、より広くは住民自治を進める重要なキーワードとして浮上してきたことが理解できる。議会事務局(議会局)の到達点を確認しながら、議会改革、住民自治をもう一歩進める課題を探る必要がある。
そもそも、議会が進むべき新たな方向が見えていなければ、議会事務局は従来の議会の支援として議事と総務だけを担っていればよいということになる。その議事も従来型のものである。しかも、その議会事務局職員は執行機関からの出向であるために、新しい情報は議会に持ち込まれるが、議会事務局から情報が執行機関に流れる、それにより執行機関の論理で議会が動かされる、といった評価も広がっていた(野村 1993)。今では驚くが、「議会事務局職員=『行政のスパイ』説」がまことしやかに流れることもあった。
今日、一気に議会改革が進み、新たな議会の方向が見え始めた。この新たな議会の登場は、議会事務局職員の意識や行動に影響を与えざるを得ない。議会事務局職員として継続的に活動したいという職員も少なくない。執行機関で働くことをイメージして地方公務員採用試験に臨んだ人たちであるにもかかわらず、である。断片的に議論されてきた議会事務局について、多角的な議論を経て新たな議会事務局像を提示する必要が生まれている。それを模索するのが、本連載の目的の1つである。
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