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2017.10.25 議会改革

第16回 問われる議員定数・報酬 ――住民自治の進化・深化の視点から考える――(下)

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

4 もう一歩Ⅱ:報酬の根拠――役務の対価のエビデンス(証拠)を――

(1)報酬を考える論点
 今日、報酬削減を実施する議会がある一方で、増額する議会も増えている(群馬県みなかみ町議会、同榛東村議会、北海道芽室町議会、石川県白山市議会、岩手県滝沢市議会など)。議会の役割の高まり、多様な人材確保という理由からである。しかし、その基準は必ずしも明確ではない。そこで、役務の対価といわれる議員報酬を考える論点を確認したい。
 議員報酬を考える場合、原価方式、比較方式(類似団体比較)、収益方式(成果重視)が想定できる。比較方式は、参考にはなるが根拠としては弱い。また、収益は重要であるが、その算定方法は確立しておらず、それと報酬とを関連付けることは困難である。もちろん自己評価であれ議会としての収益を住民に発信することは必要である。なお、身分給だと豪語する議員がいるが、まったく根拠がない。住民から批判されるだけである。
 そのため、原価方式を基礎に調査を行った会津若松市議会の試みが広がっている(6)。議会活動(A領域)、議員活動(B領域)、議会活動・議員活動に付随した活動(質問や議案に関する調査等)(C領域)、それ以外の議員活動(議員としてかかわる住民活動等)(X領域)を中心にそれぞれ時間数を算定する。選挙・政党活動(政党助成金の対象)はこの限りではない。そこで算定された時間数(正確には1日8時間でカウントした日数)を、首長(副首長、教育長の平均を採用する自治体もある)の活動日数と比較する。その割合に基づき、首長の給与から議員の報酬を割り出すというものである。
 もちろん、首長給与と連動させる根拠の説明が必要である。その根拠としては、選挙で選出される公職者であるという共通性とともに、首長の給与は当該自治体の民間企業(そして一般の公務員)の給与水準と連動しているためである。
 なお、すでに何度も強調しているが、会津若松市議会方式によって導き出された数値は、住民と議論する際の素材であって、科学的な基準ではない。また、議員活動を示しただけでは、「だから何」と住民からいわれるだけである。その活動が住民福祉の向上につながったのかを自己評価であったとしても説明することが必要である。「議会からの政策サイクル」とその評価は、住民に対する説明手法の1つである。
 報酬のことなど問題とせず「政治のために生きる」ことが崇高で、報酬をとやかく問題にする(「政治によって生きる」)ことは、政治を堕落することにつながると主張する人がいる。議会・議員活動が活発化し「名誉職」では成り立たなくなる中で、「政治のために生きる」ことができるのは、裕福な人か、年金生活者か、今、裕福でなくとも議員になることでそれを目指す人である。その人たちが俗世間の誘惑に絡めとられない保証はない。「政治のために生きる」ことと「政治によって生きる」ことは精神的に矛盾しない。

☆キーワード☆
【「政治のために(für)生きる」と「政治によって(von)生きる」】
 マックス・ヴェーバー(1980(原著 1919))の区分を紹介したい(紹介に当たっては、文脈を入れ替えている場合もある)。地方議員を職業政治家と規定することには躊躇(ちゅうちょ)するが、無産者(普通の人)が議員として政治を担うには、ここで紹介する論理も踏まえることが必要であろう。
 ① 政治を職業にするといっても2つの道がある。それが「政治のために生きる」と「政治によって生きる」である。
 ② 精神的には両立する。政治のために生きる人も、精神的な意味では政治によって生きる。権力を享受したり、仕事を行う自分の生活には意味がある、といったように。
 ③ この2つの道は、より実質的な側面、すなわち経済的側面に関係している。「政治によって生きる」は、政治を恒常的な収入源にしようとする者(職業としての政治によって生きる者)であり、「政治のために生きる」はそうではない者である。
 ④ 「政治のために生きる」者は、経済的に余裕があること、つまり収入を得るために自分の労働力や思考を働かせずにすむ人である。労働者も企業家(経営に縛られているという意味)も余裕がない。「自分の政治支配を普通、彼個人の私的経済利益のために利用しようとしない、などを言っているのではまったくない。第一そんなことをまったくしない階層など、これまでいたためしがない」(傍点筆者)。
 ⑤ 金持ちの職業政治家だと、報酬を直接求めなくてすむが、財産がない政治家は報酬を求めざるを得ないこと――「ただそれだけの意味である」。
 ⑥ 政治家に財産がないと、政治によって自分の生活を考え、「仕事」を考えない、という意味ではない。「これほど誤った考えはあるまい」。
 ⑦ 「政治が『名誉職』としておこなわれることは、政治がいわゆる『自主独立の』〔誰の厄介にもならぬ――引用者注〕人によって、つまり資産家、ことに利子生活者によっておこなわれることだが、他方、政治が無産者にでもできるためには、そこから報酬の得られることが必要である」。
 ⑧ 「要するに私の言いたいのは、政治関係者、つまり指導者とその部下が、金権制的でない方法で補充されるためには、政治の仕事に携わることによってその人に定期的かつ確実な収入が得られるという、自明の前提が必要だということである」(傍点筆者)。

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江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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