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2016.05.10 政策研究

【フォーカス!】形は整ったが?

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国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。

形は整ったが?

  政府は4月19日、2050年に向け二酸化炭素(CO2)排出量を現在の半分まで減らすことに役立てる「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定した。経済産業省は同日、「エネルギー革新戦略」をまとめた。
   これによって、2015年12月にパリで開かれた気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択した「パリ協定」に基づく日本の措置がまとまったことになる。
   まず、日本の温室効果ガスの排出量を2030年度までに、2013年度比で26%削減する約束を実行する対策を盛り込んだのが地球温暖化対策計画。現在、パブリックコメント中で5月内に閣議決定する予定だ。次に2030年度までの経産省のエネルギー対策を示した革新戦略、2050年を視野に入れた技術面のイノベーション戦略となる。
   第1次安倍晋三政権時の2007年に「2050年までに排出量を半減する」とした「美しい星50(クールアース50)」、2008年に経産省が「クールアース―エネルギー革新技術計画」を発表している。今回の一連の政策は、この1次政権時の内容を第2次政権で、上書きしたということになる。
   26%削減のための温暖化対策計画は、2015年に7月に経産省がまとめた「長期エネルギー需給見通し」がベースになっている。この内容は、①2030年度にかけて2013年度に比べて35%のエネルギーの効率化を進める、②2030年度の1次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を13~14%、原子力を11~10%程度とする―が温暖化対策の柱となる。
   もちろん、CO2の排出削減と経済成長の両立を目指す「エネルギー革新戦略」もこの需給見通しに立脚し、対策を進めることで、2030年度の省エネルギーや再生エネの関連投資効果は28兆円、うち水素関連は1兆円になると見込んでいるとする。2020年度の名目国内総生産(GDP)600兆円を目指すとする安倍首相の新「3本の矢」を意識し、GDPへの効果をアピールし、予算獲得を目指した内容になっている。
  「エネルギー・環境イノベーション戦略」は、イノベーションで世界をリードし、気候変動対策と経済成長を両立させるというのがうたい文句だ。COP21のパリ協定で言及された地球全体の気温上昇を産業革命前から「2℃を十分に下回る水準」の目標に収めるには、CO2排出量を2050年までに世界全体で240億t、2030年の推定排出量570億t程度から、300億t超の追加削減を求められる。
   この実現に必要な技術開発をピックアップし、日本が主導したいという思いを込めた。戦略によって数10億~100億t超の削減が期待できるとしている。有望分野としては「ICTによりエネルギーの生産・流通・消費をデマンドレスポンス(DR)も含め、AI、ビッグデータ、IoTなどを活用して互いにネットワーク化する」「次世代パワーエレクトロニクス、革新的センサー、多目的超電導などコア技術の開発」などを挙げている。
   といっても、これらはあくまで技術開発の芽だしでしかない。なぜ経産省がこのような問題に熱心かというと、やはり予算の獲得であり、技術開発に主導権を握りたいという省益である。経産省は4月27日にも、人工知能(AI)やロボットといった最新技術を使って経済成長を達成するとした「新産業構造ビジョン」の中間整理案を公表した。実現すれば2030年度にGDP846兆円を達成できるとしている。
   600兆円を達成するには、このシナリオに乗るべきだ、ということだろう。地球温暖化対策も含めて、経産省は伝統的に経済発展、構造改革などのシナリオを描き続けてきた。歴代の自民党政権はこれに乗ってきたが、うまくいっていればバブル崩壊後の失われた20年云々、といった悲惨な状況にはなっていないだろう。政策立案能力に疑問符が付いてもいい頃ではないか。
   8%削減の第1約束期間は、海外から排出量を買い取るという技も使って、何とか達成したが、26%削減の約束草案の達成は本当に可能なのかは、この温暖化対策計画など一連のものでは分からない。具体的な施策とその削減効果について、十分に積み上げて作ったわけではない。形は整っているが、経産省だけの温暖化対策のシナリオに乗ることは、一連の経済対策と同じ轍を踏まないか心配になってしまう。
 

『議員NAVI』編集部

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