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2016.04.11 政策研究

【フォーカス!】4000万人の達成は可能か?  地域は自ら目標を設定すべき

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国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。今回は諏訪雄三共同通信社編集委員兼論説委員に、政府が掲げた「2020年に、訪日外国人旅行者数を2015年の2倍となる4000万人に増やす目標」について、すぱっと斜めにご解説いただきました。

4000万人の達成は可能か? 地域は自ら目標を設定すべき

諏訪雄三 一般社団法人共同通信社編集委員兼論説委員

 政府の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が新しい観光ビジョンをまとめた。東京五輪が開かれる2020年に、訪日外国人旅行者数を2015年の2倍となる4000万人に増やす目標を掲げた。旅行者の消費額も同様に2倍の8兆円にするとしている。
 安倍晋三政権では数少ない、分かりやすい成果が上がっているようにみえる観光政策である。安倍首相は3月30日の観光ビジョン構想会議で「訪れたくなる日本を目指す。観光を基幹産業に成長させる」と述べた。名目国内総生産(GDP)600兆円など新「三本の矢」を実現させるための「エンジン」と観光を位置付けている。
 「爆買い」に象徴される中国からの観光客の増加を背景に、2015年の訪日客は1974万人。この2年間で訪日観光客が倍増している。実際は「このトレンドに乗って何とか実現できれば」という目算での取組だろう。

限定的な上乗せ効果
 4000万人とは、とんでもない意欲的な数である。外国人旅行者受け入れ数ランキング(2013年)に当てはめると、1位のフランス8301万人、2位の米国6977万人などには及ばないが、イタリアに次いで世界6番目の国となる。
 さらに陸路で来る人を除いた空路、水路に限ったランキングだと、スペインの4972万人、米国の4083万人に次ぐ3番目の国となる。つまりは、世界に冠たる観光国になるということだ。
 こんな急速に観光分野が伸びた国もあるまい。その背景には国際的な観光のトレンドがある。国連世界観光機関(UNWTO)によると、2009年のリーマン・ショック後、国際観光客到着数は毎年10%程度のペースで伸びている。つまり、海外旅行に出ることができる所得層、中間層が増えることで海外旅行は国際的なブームである。
 しかも欧州はイスラム国(IS)関連のテロもあったことから敬遠されがち。14億人近い人口を抱え、世界第2位の国内総生産(GDP)を擁する中国が隣にあるという地政学的な幸運から、観光客が急増しているのである。
 むろん、安倍政権による円安への誘導、ビザ緩和、消費税免税の拡大などの政策の効果もあった。その効果を測ることはできないが、国際的なトレンドにいくばくかの上乗せがあった程度と分析できるのではないか。
 つまり政策によって4000万人を達成するのではなく、トレンドに乗って4000万人になれば、それを政策の「アベノミクス」の効果としてアピールしようという発想とも言える。

脆弱性も内包
 このビジョンは、観光庁というよりも菅義偉官房長官の主導でつくられた。秋田県出身でもあり、「地方創生」にも熱心だ。東北を中心に地方に観光客を導くという強い意識をもって政策を進めており、「影の観光大臣」との異名をとっている。
 これまでも菅官房長官の鶴の一声で、観光予算が倍増したり、入管や税関の職員定員が増やされたりとの剛腕ぶりも聞こえてくる。
そもそも観光予算とは「どの国にいくらプロモーションしたから、何人観光客が増えた」といった「費用対効果分析」が難しいとされた分野だった。財務省も観光予算の増額には及び腰だったが、官邸主導もあって最近は予算の増加が目立っている。
 だが、前述したような大きなトレンドを前提に、中国に多くを頼ったような観光客の伸びである。2010年9月に尖閣諸島近くで操業中の中国漁船が、取り締まり中の海上保安庁の巡視船に衝突した事件を契機に、中国人観光客が大幅に減ったことがある。韓国とは竹島問題があり、観光客が減少した時期もある。
 このように領土問題など外交関係で課題を抱える両国に主眼を置いた観光政策は、脆弱性も内包することになる。どこまで両国頼みから脱却し、観光客を安定的に迎え入れることができるのか。ビジョンの裏テーマでもある。

見えない達成の見通し
 ビジョンの中身を見ると、東京から富士山、そして京都・大阪をめぐる「ゴールデンルート」に偏る観光を、それ以外の地域に広げることに主眼を置いている。東京、京都、大阪といった地域のホテルが満杯で部屋が取りにくくなっていることを考えれば当然だろう。 
 同様に、格安航空会社(LCC)などを地方空港に誘導するため着陸料を軽減することも考える。成田、羽田、関西などの国際空港が満杯に近づいているからだ。
 三大都市圏以外への誘導の目標としては、地方での外国人延べ宿泊者数を2015年の2519万人から、2020年には7000万人、2030年に1億3000万人にする。さらに来日2回以上のリピーターは2015年の1162万人を2020年に2400万人、2030年に3600万人とした。
 リピーターの方がゴールデンルート以外に回る可能性も高いことから、この目標設定の仕方は評価できるだろう。ただ、数字に説得力はない。
 このほか、主な政策を紹介すると、①赤坂(東京)や京都の迎賓館、歴史的、文化的な公的施設を一般向けに公開する、②「文化財活用・理解促進戦略プログラム2020」(仮称)を策定し、地域の文化財を一体的に活用、日本遺産など文化財を中核とする観光拠点を200程度整備する、③全国5カ所の国立公園で、2020年までにアクティビティの充実や景観改善などに集中的に取り組み、外国人利用者を年間430万人から1000万人に増やす、④景観の優れた観光資産の保全、活用のため、2020年をめどに、原則として全都道府県と全国の半数の市区町村で景観計画を策定する、⑤東北6県の外国人延べ宿泊者数を2020年に150万人とするため、東北観光復興対策交付金を創設、広域観光周遊ルートの形成などに取り組む―などがある。
各省庁の取組をホチキスでとめたというのが正直なところだろう。安倍政権の看板政策である「地方創生」の総合戦略とも共通しているが、さまざまな意欲的な目標と、短期、中期の施策は盛り込まれている。
 しかし、政策の効果を積み上げて目標を設定しているのではなく、目標と政策との有機的な結び付きが乏しいといえるだろう。意欲的な目標は設定したが、達成するための道筋となると見えない。世界的なトレンド任せである。
 地方のそれぞれの地域は、国の大きな目標に惑わされることなく、地域ごとに取組を強化し、計測可能な目標を設定すべきである。その実現に着実に取り組むことが重要である。

『議員NAVI』編集部

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