議会事務局実務研究会 吉田利宏
■お悩み(災害に強い議会を目指す4期当選さん 市議会議員60代)
私どもの市は南海トラフ地震の被害が予想される地域にあります。先年、議会基本条例を定めましたが、「災害時の議会の役割」について何も規定がありません。そこで、条文の追加改正を議会に提案しようと思っています。ただ、他市の議会基本条例を見ても、いわゆる「ひな形」的な規定がなく困っています。正直、議会として何も災害対応を決めていませんので、最低限どんな規定が必要なのか、そのヒントをいただけないでしょうか?
回答
A 議会における災害対策の組織や業務継続計画の根拠になるような規定
B 市民を守るため議会が迅速な活動をすると宣言する規定
C 予防・発災直後、初動期経過後、復旧・復興期に議会がするべきことに関する網羅的な規定
お悩みへのアプローチ
「災害にどう対応するか議会で議論するのが先じゃないですか?」。本当はそういわなくてはなりません。議員の皆さんとお話しすると「私は何がしたいのでしょうか?」的な質問を受けることが時々あります。しかし、「何をしたいのか?」ということを分かってもらうことも大事な回答者の仕事なのでしょう。今日も、そんな仕事のようです。
まず、国の法令上、災害に関する議会の役割に関する規定は特段ありません。災害対策基本法は自治体に地域防災計画を定めることを規定しています。しかし、これに議会が関与する仕組みは法定化されていません。また、大規模災害時には地域防災計画に基づいて災害対策本部が置かれることになるでしょうが、これに議会側が関与する法律上の規定もありません。つまり、国の法令上は、災害時に当たっては行政が前面に出て対処すべきものとされているのです。そんなこともあって、これまでの議会といえば、厳しい状況で対応する執行部側の「足を引っ張らないよう」側面支援をするのが精一杯だったといえます。
ただ、「二元代表制の一翼を担う」という自覚が生まれ、「これではいけない!」という思いも議会に出てくるのでしょう。その意気に免じて一緒に考えることにいたしましょう。
回答へのアプローチ
災害時における議会の役割を考えるに当たって、どうしても知っておかなければならないのが、東日本大震災で被災した議会の経験です。この経験を集めたレポートがあります。それが、都市行政問題研究会「『都市における災害対策と議会の役割』に関する調査研究報告書」(2014年2月)です。研究会加盟86市及び大規模災害被災自治体33市の議会(合計119市議会)を対象にした調査結果の分析と被災自治体の議会での現地レポートからなっています。全国市議会議長会のウェブサイト(「活動報告」)から全文を見ることができます。
このレポートなどを見ると、議会ができること、議会がするべきことが見えてきます。①平時(災害前)、②発災直後(初動期)、③初動期経過後、④復旧・復興期に分けるとおおよそ次のようになります。
なるほど、議会として果たすべき役割はいろいろあります。ただ、議会基本条例で議会の役割を書き込もうとする場合には、これらのうち、議会として何が大事かという判断はしなければなりません。
古い議会や古い議員は、困ったときには「オールマイティー発言」で逃げようとします。「市民を守るために迅速に行動します」みたいなものがそれです。どんなに力を込めて訴えようが、こうした条文には議会の自己満足以上の内容はありません。平時についてなら、「意味がなくても害がない」かもしれませんが、この場合は災害時です。行動の基準もなく議会や議員が動けば、それこそ執行部の「妨げ」になることだってあるはずです。事実、被災自治体の職員の口からそうした議員の「被害報告」も寄せられています。ですから、Bはやめておきましょう。
だんだんと回答に近づいてきましたが、災害時に議会がまず心がけることは、執行部の側面支援と議会としての次の動きに備えることでしょう。となると、最初にすべきことは、議会や議員が災害時にどのように動くかという行動の基準を定めることということになります。
「議会の業務継続計画(BCP)」という言葉を耳にすることが多くなりましたが、そこまで本格的でなくとも、「災害時の議会・議員の行動計画」は定めておくべきだと思います。そこでは、議会機能の再開に当たっての議員や職員の確保、そして、議会がバラバラにならずに執行部と情報を共有したり、対応を提案したりするための「組織」を用意するのもいいでしょう。次の香川県の宇多津町議会基本条例は、そうした議論を基に定められたものと思われます。
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