自由討議を通じた議会基本条例の見直し、中学生や高校生との対話事業、女性議員の産休に関する会議規則の改正など、近年議会改革で注目を集めている取手市議会。議会事務局職員による巧みなファシリテーションもその秘訣の一つと言われています。その取組みについて、取手市議会事務局次長の岩﨑弘宜さんにお伺いしました。
編集部 議会改革において、議員のファシリテーション技術の習得や議会運営への応用が注目されています。取手市議会では、ファシリテーションに関し、何か取組みをされていますか。
岩﨑弘宜取手市議会事務局次長(以下、「岩﨑」) 取手市議会では、議会として「議員」に対するファシリテーション能力の向上といった観点では、特段の取組みは実施していません。その理由としては、当市議会の役割分担として、ファシリテーションは議会事務局職員が担い、議員の皆さんには対話そのものに集中し、調査事項の解決に注力して頂くという考えがあるからです。ただし、毎年実施している議会による市内中学校への出前授業では、市議にクラスごとのリーダーを務めて頂いていますが、そのリーダーとなる市議の方には、毎年、必ず半日の事前研修は行っています。研修の講師は私が務めさせていただいています。研修内容は、生徒との接し方や授業の進行方法、パワーポイントの用い方などです。
編集部 取手市議会では、「議会報告会」を改め、「市民との意見交換会」に変えられたようですが…
岩﨑 はい。議会報告会に関しては、当市議会では平成27年の秋から「報告会」ではなく「参加者との対話」をメインとなるものにしよう、と意識を切り替えてきました。これは、実際に議会報告会に参加した方のアンケートの中に「「報告を聞く」より「市議と話したい」」という声が多かったためです。議会報告会の開催の在り方については長く試行を続けてきました。議会基本条例の検証を経て、平成30年には同条例の改正も実施し、現在では「市民との意見交換会」と位置づけています。市議の皆さんも、1人でも多くのかたが参加いただけるにはどうしたらいいか試行錯誤しています。
編集部 「市民との意見交換会」と呼び名を変え、意識も変えられたのですね。市民の中には積極的に発言される方とそうでない方もいると聞きますが、どんな工夫をされていますか。
岩﨑 この「市⺠との意⾒交換会」では、平成30年11⽉の開催時には、防災シミュレーションゲームを意⾒交換会の⼀部で取り入れました。ゲーム中に出される課題に対し、参加した市民と市議が対話し、その後、その課題に関して、取手市の防災計画では実際にどのように規定されているのかを共に確認しあう、といった構成としました。この意見交換会の参加者の中には、小学生のお子さん2人と保護者の方の参加もありました。
また、他の意見交換会でも、参加者と市議が車座になって、皆さんが意見を言いやすい空気を作っています。
「防災シミュレーションゲーム」は、提示された事例を自らの問題と考え、「YES」または「NO」のカードで自分の意思を示し、それについて対話を行う意見交換の手法
編集部 議員間討議についてはいかがでしょうか。
岩﨑 議員間討議についてですが、当市議会では本会議での討議は実施していません。会議規則の基本の「質疑・質問・討論」です。ただし、この内、討論については議会基本条例において「1議題につき3回までできる」と規定し、「討論1回の原則」をなくしています。これは「議員間討議」に代わる当市議会での運営方法です。そして、「討議」については「委員会における自由討議」を規定し、実施しています。通常の常任委員会などでは、議案や請願の説明、質疑の後、委員長から「討議を希望する議題はありませんか」と確認し、委員から「議案第○号について希望します」の申し出によって、討議を行っています。所管事務調査などでは、ほぼ自由討議の形式で実施しています。
編集部 所管事務調査はほぼ自由討議なんですね、それは素晴らしいですね。
岩﨑 取手市議会の特色としては、議会運営委員会等において議会事務局職員もその討議に加わる場合があります。この場合には、委員長があらかじめ「この討議には議会事務局職員も発言願います」と宣告して討議が始まります。これが取手市議会事務局職員の「やる気」につながっている一つの大きな要因とも感じていますし、取手市議会の皆さんに感謝しています。
編集部 職員の皆さんが討議に加わることもあるんですね。討議は、ファシリテーションの観点からはどのような進め方がされているのでしょうか。
岩﨑 これまでの自由討議の主なものとしては、平成31年、議会運営委員会において議会基本条例の検証を実施した際のものです。最初に取手市議会として取り組んできた事実を確認するための検証シートを、全議会運営委員、正副議長、議会事務局がそれぞれ作成しました。その後、検証シートに基づき、事実の確認や改善点を見出す討議を行いました。この討議の際には、ホワイトボードやプロジェクター、スクリーン、PCを用いて論点整理するなど、討議を見える化しながら進めていきました。この見える化する部分を、議会事務局職員が担っています。
ホワイトボードやプロジェクター、スクリーン、PCを用いて論点整理するなど、討議を見える化