山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
本稿の課題
本特集の目的は、決算の重要性を再確認するだけではなく、議会改革の到達点を踏まえて、議会の監視・政策提言力のパワーアップに資するための決算審査のあり方を探ることにあるのだろう。様々な実践の紹介や課題は次回以降の論稿に委ねることになる。今回は、結論を先取りすることになるが、以下のことを強調する。
① 決算は執行された予算の監視であり、議会はその監視に属する権限を有する。したがって、「終わったこと」として単に認定すればよいわけではない。現在執行されている予算(以下「本年度予算」という)とかかわる事項が含まれている場合、その再検討が必要となるだけではない。地方自治法が改正され、不認定の場合、「必要と認める措置を講じたとき」という限定を付しているものの、首長は議会に対して報告する義務を負うことになった(首長の説明責任の発生)。また、決算審査によって明確になった論点をその後の予算審査で活用することができる。決算審査は政策財務の起点である(1)。
② 決算審査は、議会からの政策サイクルの重要な要素である。議会からの政策サイクルは、新たな議会にとっての重要な手法である。決算審査に当たって、それを政策財務に活用する。政策財務にかかわることは、条例の審査とともに議会の最も重要な役割である。まさに地域経営の本丸に議会が切り込むことになる。しかも、決算審査によって財務の課題が明確になり、それを踏まえた予算審査が可能となる。また、こうした予算審査により決算審査が充実する。こうして政策財務の正の連鎖がつくり出される。議会による政策財務の実践にとって、附帯決議は重要な道具であることも確認する。
③ 決算と予算の狭間(はざま)を埋める。政策財務には複眼的な視点が要請される。前年度の決算審査、来年度に向けての予算審査、そして現在動いている予算執行の監視と補正予算審査である。決算と予算の間に本年度予算の監視を加えることの必要性である。決算審査を踏まえた予算審査というサイクルに、本年度予算審査を加える複眼的視点である。その際、決算にかかわる情報の活用とともに、本年度予算の進捗状況を把握する視点が重要となる。なお、総合計画に基づいた監視の視点が重要なことも強調する。
④ 決算(予算)審査の充実のための道具の発掘。総合計画を念頭に置いた決算(予算)審査を行うが、そのためには総合計画が実行性あるものでなければならない。また、決算・予算審査を充実させるための委員会の設置は重要である。通年的に活動できる常任委員会設置が妥当であろう。監査委員(議選監査委員)との連動も重要である。「守秘義務」の縛りからの解放が課題となるが、そもそも情報公開を原則とする地域経営にとって守秘義務を強調する時代錯誤も再認識したい。また、専門的知見の活用等、外部の知見の活用も重要になる。政策財務に当たっての附帯決議の重要性を再認識したい。
決算審査の意味
決算は政策財務にとって極めて重要である。「住民自治の根幹」としての議会にとって、政策財務にかかわることが必要だというより、その使命にとって不可欠だ。決算は、執行の終了を監視するものである。したがって、不認定でも契約と執行は終了していることが原則である。そこで、不認定でも法的効果は変わらないから(2)、主体的にかかわる必要はないといった発想もある。
不認定をこの程度とみなす発想があること自体に、新たな地域経営にとっては違和感がある。財務は地域経営にとって極めて重要である。だからこそ、議会に認定を求めている。そうだとすれば、「ラバースタンプス」(追認)などありえない。不認定とした決算審査で問題となった政策と関連ある本年度予算の再検討を議会として迫ることも必要だ。
そもそも、「普通地方公共団体の長は、前項の規定により監査委員の審査に付した決算を監査委員の意見を付けて次の通常予算を議する会議までに議会の認定に付さなければならない」(自治法233③)(3)。そして、「普通地方公共団体の長は、第三項の規定による決算の認定に関する議案が否決された場合において、当該議決を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、速やかに、当該措置の内容を議会に報告するとともに、これを公表しなければならない」(自治法233⑦、平成29年の改正により新たに追加された項)と、否決された場合の首長の対応も明記された。不認定の重みを再確認したい。もちろん、「必要と認める措置を講じたとき」となっていて、執行した予算への対応が難しいものもある。とはいえ、「必要と認める措置」を講じたかの説明責任を首長に問うことができ、講じたか否かを把握することができる。また、「講じた措置の内容、又は措置を講じなかつたことについて、議会での審議・論議で取り上げることが可能となる」。「結果として、決算審議を通じた地方議会の活性化が期待される」(松本 2017:895)。さらに、補正予算が提出された際の予算の組み替えとまではいかなくとも、首長のその政策への姿勢については問うべきであろう。
不認定の重みは、予算審査でも生かされることになるし、生かしていかなければならない。なお、決算は予算とともに一体化原則がある。分割して、この「款」、「項」だけ反対というわけにはいかない。課題が明確になっても、全体的に認定しなければならない選択をする場合もある。決算審査を予算審査へ連続させるには、附帯決議を行うことも重要である。予算案提出の際には、議会としてそれを踏まえた予算審査ができる。
こうした決算と予算を連続させる手法は、議会からの政策サイクルを政策財務に活用する次の点に連動する。