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特集 若者政策

2019.04.10 政策研究

投票率8割を超すスウェーデンと日本の違いとは

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地方自治ジャーナリスト 相川俊英

スウェーデンの半分の投票率に沈む日本の選挙

 「18歳選挙権」と「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(候補者男女均等法)」が導入されて初めての統一地方選が実施されている。4月7日に前半選である知事選や道府県議選、政令市長選などが投開票されたが、過去最低の投票率に終わったところが多い。民主主義の根幹をなす選挙の空洞化が加速しているといわざるをえない。とりわけ深刻なのが、投票率の長期低落に歯止めがかからないどころか、定数を超える候補者が現れず無投票となるケースが相次ぐ議員選挙だ。選ぶことを自ら放棄したり、選ぶ機会そのものを失った有権者が激増している。日本の議会制民主主義が危機的状況に陥っているのである。もっとも、主権者が政治に背を向けるこうした現象は欧米各国でも広がっており、今や民主主義が抱える持病のようにさえみられている。
 だが、民主主義を標榜(ひょうぼう)する国の中には、その理念に近い政治を実現させている国も存在する。そのひとつが国政選挙と地方選挙の投票率がいずれも8割を超すスウェーデンだ。若者の投票率や女性議員率も日本とは比較にならないほど高く、政治が生活の一部となっている。なぜ、同じ民主国家でこれほどの違いが生じているのか。スウェーデン研究者で、若者政策の専門家である両角達平さん(文教大学生活科学研究所研究員)にお話を伺った。

なぜスウェーデンは高投票率なのか

──2018年9月に実施されたスウェーデンの国政選挙の投票率は87.2%でした。同時に行われた地方選挙(県・市)の投票率もほぼ同じと聞きました。2014年の選挙での投票率も85.8%で、長年、8割台が続いています。なぜ投票率がこんなに高いのでしょうか。
 日本では、政治がどこか普通ではないもののようになっています。政治家も特別な存在のように思われていて、スーパーマンみたいなことを求められているようにみえます。一般市民から離れているのです。スウェーデンの政治家はそうではなくて、ごく普通のおじさん、おばさん、学生がなっています。選挙の投票率が高いのは、(有権者の)個々の能力が高いからというわけではありません。では、なぜ高いのか。その要因のひとつとして選挙制度がとても分かりやすいことが挙げられると思います。

スウェーデンの若者政策研究の第一人者、両角達平さん

──スウェーデンでは18歳から選挙権と被選挙権を持つと聞きました。それ以外にも選挙制度に日本との違いがあるのですか。
 国政選挙は4年に1度、それも地方選挙と同時に行われます。選挙期日が固定していますので、お祭りのようになります。選挙はいずれも比例代表制で、有権者は政党名と(政党の候補者リストに載っている)個人名のどちらかで投票します。各政党は何をしたいかを明確にしていまして、4年間かけて練り上げた政策を選挙でぶつけ合うことになりますから、論点や争点が明確になります。有権者からすると、各政党の政策の違いがはっきりしていて、選びやすいのです。
 選挙そのもののアクセスもしやすくなっています。期日前投票や代理投票、郵便投票が認められていて、さらに期日前に投票したものを投票日当日に変更できる「後悔投票」というものまであります。スウェーデンは有権者の(投票するに当たっての)障壁を可能な限り低くした上で、情報提供がキチンとなされているのです。メディアによる厳しい「党首尋問」や「マニフェスト評価」などが行われます。
 こうして選挙が4年に1度の国を挙げてのお祭りのようになりますが、その真っただ中で実施されるのが「学校選挙」です。スウェーデン全土の中学生や高校生を対象にしたもので、実際の選挙に先駆けて生徒が学校で投票します。各学校の生徒会が中心となってプロジェクトを組み、国(若者・市民社会庁)の担当事務局に申請して投票用紙などの「学校選挙キット」を受け取ります。そして、学校に各党の政治家を呼んで話を聞いたり、ディベートなどをした上で、生徒が実際の政党に投票するのです(2014年の選挙では1,629校、46万5,960人の生徒が参加。実際の選挙での30歳未満の投票率は81.3%。ちなみに、同年に実施された日本の総選挙での20歳代の投票率は32.6%だった)。
 学校選挙には各政党の青年部(13歳から30歳まで)に所属する若者が主に出向いています。

──日本の高校などで実施されている模擬投票とは内容がだいぶ異なりますね。この取組みの成果が、スウェーデンの若者の投票率の高さとなって現れているのでしょうか。
 そうですね。といっても、スウェーデンでは“投票そのものは政治参加の第一歩”という捉え方をしておりまして、投票以外での政治参加・社会参加の場もたくさんつくられています。しかも、参加はゴールではなく、物事を実際により良く変えるものとなっているのです。家庭や友人グループ、サークルや学校、地域などミクロからマクロのレベルでそうした取組みがなされています。例えば、学校に給食委員会が組織されています。ここで児童・生徒から給食のメニューへの意見や評価、提案などがなされます。授業のカリキュラムについても生徒会が意見や要望を伝え、学校側と交渉します。先ほど紹介した政党の青年部も党本部の単なる下部組織ではなく、党本部に手足のように動かされる存在でもありません。自分たちで若者政策を立案し、党本部と協議・交渉して党の若者政策に反映させています。党内民主主義がしっかり機能しているのです。国の政策決定も同様です。ある分野の政策を決定する場合、当事者たちの了解を事前にとることが求められています。

似て非なる二つの民主主義

──スウェーデンの若者の多くが「自分は小さい頃から何をやるか自分で選択し、自分で決定してきた」と、語ると聞きました。自己決定が当たり前なので、無関心や諦めなどから投票に行かないという行為が理解できないようです。
 民主国家の多くで民主主義が理念だけで終わってしまっているように感じます。政治の世界がエリート主義になっていて、生活者に即したものになっていません。民主主義は本来、ごく普通の生活者が政治参加するはずのものです。スウェーデンのある政党の党首が「議員が一生の仕事であってはならない」と話していました。議員であることが目標になってしまうからです。実際、スウェーデンでは政治家をずっと続けるというケースは多くありません。
 個々人が自分の力を発揮して社会に影響を与え、(自分の意見などを)反映させる。それによって社会をより暮らしやすいものに変えていく、そうした一連のプロセスこそが民主主義なのではないでしょうか。スウェーデンの若者の多くは「自分は社会に影響を与えられる、社会を変える力がある」と考えているのです。

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