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特集 若者政策

2019.03.25 政策研究

子ども・若者とつくる自治体の未来

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首都大学東京特任准教授/模擬選挙推進ネットワーク事務局長 林 大介

「18歳選挙権時代」から「18歳成人」時代へ

 2016年6月から「18歳選挙権時代」が始まり、2022年4月1日からは「18歳成人時代」が始まる。世界の7割以上の国が18歳成人の中で、日本はやっと世界に追いついた。
 その一方で、少子高齢化が進んでいる日本において、いわゆる「消滅可能性自治体」は、「その自治体の担い手がいない=高齢化の進行=若年層の自治体離れ」であり、担い手を育てなければ、自治体が消滅してしまう状況にある。
 「18歳選挙権」、「18歳成人」ということは、つまりは、18歳の高校3年生になるまでに、主権者意識・市民意識を育む必要があるということ。だからこそ私たち一人ひとりの市民は、地域の一員としてきちんと子ども・若者と向き合わなければならない。子ども・若者時代を過ごす地域において、その町の地域住民として生活者としての意識をどれだけ感じることができるのか、地域の担い手であるという自覚が生まれてくる環境にあるかどうかが、今、問われている。

地域コミュニティ・自治体における「子ども・若者の参加」実態

 そもそも国連子どもの権利条約が保障する子どもの権利を実現する「子どもにやさしいまちづくり」においては、18歳未満の子どもも権利主体として積極的に関わることができる機会を創り出すこと、意思決定過程において子どもの意見を反映させることを重要視している。
 自治体政策における「子どもの参加」について、筆者が2014年度に行った【自治体における「子どもの参加」に関する実態・意識調査】では、「子どもの参加」に取り組んでいる自治体は53.3%と過半数を超え、子ども参加の内容としては、「子ども会議・子ども議会」33.4%、「審議会への参加」22.4%、「子ども施設の設計・運営等」10.5%となっている(1)
 「子ども参加」の具体例としては、「学校建設に伴う基本設計への意見の反映~小・中学生」(北海道滝川市)、「中学校生徒会サミット」(岐阜県中津川市)、「高校生代表者会議」(沖縄県)、「子ども議会」(北海道壮瞥町、青森県むつ市、秋田県仙北市、神奈川県鎌倉市、神奈川県葉山町、群馬県藤岡市、石川県野々市、愛知県知立市、佐賀県江北町、鹿児島県屋久島町など多数)などが挙げられる。
 「子ども議会」、「子ども会議」で出された子どもの意見については、「反映された」が148自治体/64.6%、「反映されなかった」が16自治体/26.6%であった。実際に反映された子どもの意見としては、「大型児童センターの愛称等」(北海道石狩市)、「防犯灯の増設についての意見が出ていることを受け防犯灯設置の定期的な現地調査の際に、通学路についてこれまで以上に注意を払う」(埼玉県吉川市)、「街灯の増、子どもバス料金の軽減、学校設備の改修」(北海道士別市)、「子どもの権利条例の制定」(北海道北広島市)、「子どもの目線による公園づくり、遊び場の確保」(滋賀県近江八幡市)などとなっている。
 また、子どもの権利条約総合研究所が2017年1月~2月にかけて実施した「地方自治と子ども施策全国自治体調査」によると、「子どもを主たる対象にした計画を策定する際、子どもの意見を取り入れている」自治体は11.4%、「取り入れていない」自治体は81.8%。「子どもに関わる施策を全庁的に調整する組織がある」自治体は、「各部課が独自に推進する」自治体に比べ、まちづくりへの「子ども参加」の割合が5倍近く高い結果となっている。

子ども・若者参画の意義

 「子ども議会・子ども会議」や「審議会への子ども参加」では7割で「子どもに変化や成長があった」との回答があり、子ども自身が自ら意見を出し、議論に参加する機会は、子ども自身の変化や成長につながっている。
 子ども自身が自ら意見を出し、議論に参加する機会は、子ども自身の変化や成長につながっており、18歳未満であっても、権利主体として、自分が生活する社会に参加し、自分たちが望むまちのあり方に意見表明して、決定に影響を及ぼすことができることは、子どもにとって成長の場となる。
 自治体の担当部課における子ども参加に対する考えは、「子どもも一人の市民(主権者)として、その意見を把握することは必要なことである」(23.4%)、「施策の対象が子どもの場合は、その意見を把握することは必要なことである」(19.9%)、「子どもは成長途中にあるが、年齢に応じて意見を把握する必要がある」(13.3%)、「教育の一環として、子どもから意見を聞くことで子どもの成長に活かすべきである」(2.0%)。子ども時代の参加が主権者意識を育み、自分が生活しているまちの住民であることを意識させることにつながっており、こうした意識は消滅可能性自治体ほど、切実であろう。
 そして、消滅可能性自治体の中の、問題意識を強く感じている自治体ほど、議会や行政が高校のみならず、小学校や中学校に出向き、子どもとの意見交換や対話を重ねたり、子ども議会・子ども会議を開催するようになっている。たとえ、進学や就職のために自分が生まれ育ったまちから離れたとしても、子ども時代に主権者としてまちづくりに関わった経験があれば、自分のまちに対する思いをはせ続ける。もちろん、自分が育ったまちに貢献しなければいけない、というわけではないが、子ども時代から「自分も地域の中で生活している市民の一人」ということを実感できるかどうかが、市民意識の醸成につながるのである。

海外における子ども参加促進のためのあり方

 例えばドイツでは、反ナチ、反共教育を重視して、連邦政治教育センターを1952年に設立した。1976年には、意見の多様性を前提とし、中立性は〈対立する意見をフェアに扱うこと〉を要求するとした「ボイテルスバッハ・コンセンサス」をドイツの教育関係者によって制定した。そのこともあり、選挙期間中においても、小学生対象の公開討論会が行われている。
 ベルリン市では、保育園近くの公園の改修に当たり、日常の利用者である園児(4歳)にヒアリングを行うなど、幼少期から子どもの権利・子どもの意見表明を重視し、民主主義を子ども時代から感じることができるように腐心している。
 コスタリカでは、「児童会・生徒会」は「小さな政府」であり、民主主義を体感する場として、公立の小中学校すべてにおいて、必ず児童会・生徒会選挙を実施するように予算措置を行っている。また、児童会・生徒会選挙を実施するための教材を、選挙最高裁判所と公教育省が作成するほか、選挙最高裁判所が子どもが民主主義を学ぶための各種教材(民主主義のメカニズム、女性の参加、政党のつくり方、選挙の方法など)を作成して学校に出向いたワークショップを実施している。
 いずれにしても、子ども時代から民主主義やシティズンシップを意識する取組みを行っており、その結果として、いずれの国も若年層の投票率が高くなっている。

身近な社会課題を、より身近に

 小学生による子ども議会の要望を受けて公園を整備した福岡県川崎町、地元の女子高校生がまちづくりに取り組む福井県鯖江市のJK課、1,000万円の予算提案権を持っている愛知県新城市の若者議会、中学校の“セクハラトイレ”を取り上げたら市役所が動いた京都府亀岡市の中学生議会、日常利用している通学路等の改善をまとめた長野県松本市の松本工業高校の高校生による請願など、そのまちで生活している子ども・若者自身が地域住民として、地域が抱えている課題を見つけ、その改善に対して取り組んでいる自治体は増えてきている。こうした自治体では、子ども・若者は「半人前」ではなく、一人の主権者・当事者として地域に参加・参画している。自分にとって身近な社会課題に目を向けて、その改善を求め、働きかけていく機会が保障されている。
 子ども・若者は、“大人”よりも人生経験は短く、考えや表現が未熟な部分もあり、失敗することもあるが、失敗しつつも地域に参加・参画する機会があることが、市民意識を醸成するためには不可欠である。子ども・若者の力をまちづくりに生かすことは、民主主義を実践することとなる。まさに、「民主主義は地方自治の学校」(J・ブライス)である。

* * *

 本報告と同種のテーマとして、林大介「地域の子ども・若者の力を活かしたまちづくり」自治体法務研究2017年秋号14~19頁なども併せて参照されたい。

(1) 【自治体における「子どもの参加」に関する実態・意識調査】については、林大介「少子高齢社会における主権者としての『子ども』の社会参加促進の取り組み─〈自治体における『子どもの参加』に関する実態・意識調査〉を通して見えること─」東洋大学社会学部紀要52巻2号(2014年)1~13頁参照。

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