2025.11.25 政策研究
第68回 多元性(その2):機関間関係
実態としての機関間関係
法制上の機関の設置、類型整理、権限配分はさておき、実際の実務運用上で、機関間関係が発生しているように見える状態がある。それぞれの機関が実質的に単一の意思決定を行い、それゆえ、その範囲を超える機関とは、直ちには単一の意思には至らず、その結果として機関間関係が発生する状態である。日常の事務処理は、係内・課内で行われるならば、課や係は機関として単一の意思を持ちやすい。しかし、係をまたがるとき、課をまたがるときには、そもそも意思疎通が頻繁ではないから、単一の意思形成に至ることは自明ではなく、機関間関係が発生する。いわゆる庁内調整や庁内協議・合議である。
この現象は、係内・課内でも発生する。例えば、係の一体性が強いということは、逆に同じ課内でも係間の関係は機関間関係になっていることもあろう。また、係内での各係員がそれぞれ個々に実務を進めているならば、実質的に個々の係員が自律した補助機関である。こうなれば、他の係員が何をしているかは日常的には覚知せず、何か調整が必要になれば、係内で機関間関係のような多元性が発生することになる。よくいえば個人の職務と責任が明確になっているともいえるが、チームとしての統合的な事務処理ができにくいということでもある。
機関間関係は、庁内横断会議体やプロジェクトチームが組織されるときに、非常によく顕在化する。庁内横断会議体やプロジェクトチームは、もともとある各部間・各課間などの多元性を乗り越えるために招集されるものであり、招集されないときの方が、実態としての多元性は深刻であるかもしれない。それは、機関間無関係であり、多元性すら行政的には認定されない。むしろ、庁内横断会議体は、こうした潜在的に存在してきた多元性を顕在化させ、機関間関係を形成することによって、意思調整を図ろうとする動きであろう。多元性が真に強度であれば、関係性さえ存在しないのである。
実例~要保護児童対策地域協議会~
機関間関係の事例として、要保護児童対策地域協議会(いわゆる「要対協」)が有名である。これは、2004年の改正児童福祉法25条の2に基づいて、自治体(主に市区町村)が単独又は共同で設置する機関間関係の機関である(2)。
基本的な考え方は、虐待を受けている子どもをはじめとする「要保護児童」の早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携のもとで対応していくことが重要であるということである。こうした多数の関係機関の円滑な連携・協力を確保するためには、
① 運営の中核となって関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどの責任体制の明確化
② 関係機関からの円滑な情報の提供を図るための個人情報保護の要請と関係機関における情報共有の関係の明確化
が必要である。そこで、要対協を設置するべく法改正がなされた(「できる規定」)。
要対協を設置した自治体の首長は、要対協を構成する関係機関等(3)のうちから、運営の中核となり、要保護児童等に対する支援の実施状況の把握や関係機関等との連絡調整を行う要保護児童対策調整機関を指定する。要対協を構成する関係機関等に対し守秘義務を課すとともに、要対協は、必要なときには、関係機関等に対して資料・情報提供、意見開陳その他必要な協力を求めることができる。
なお、要対協のほかに、児童に対しては様々なネットワーク(機関間関係)も存在している。例えば、少年非行問題を扱うネットワークとしては、地域協議会のほかに、学校・教育委員会が調整役となっているネットワークや、警察が調整役になっているネットワークも存在する。
要対協を構成する「関係機関等」とは、具体的には地域によって異なり得るが、おおむね全国で似たような機関である。例えば、別府市の要対協の組織は図のとおりである(4)。要対協は、市が設置する会議体ではあり、まずもって、別府市役所内の機関間関係のようでもあるが、より重要には、市を超えて県の機関や民間の機関を含めた機関間関係を形成している。その意味では、政府間関係にも収まらない広がりを持っている。そして、要対協自体が、3層の機関間関係となっている。
・代表者会議:構成する関係機関の代表者によって年1~2回程度開催
・実務者会議:実際に活動する関係機関の実務者によって月1回開催
・個別ケース検討会議:支援対象児童等に直接関わる関係機関の職員等によって随時開催
もっとも、3層に機関間関係が分かれれば、かえって別の問題も起きかねない。そのために合同会議も開催されている。
出典:別府市ウェブサイト
図
