2025.11.25 政策研究
第68回 多元性(その2):機関間関係
執行機関多元主義と首長優位
執行機関は、上記のように多数存在している。この点を指して、執行機関多元主義という。自治体の執行機関は、首長のほかに、教育委員会、公安委員会、選挙管理委員会、監査委員などがあり、多元的な機関間関係となる。都道府県レベルでは、このほかに、労働委員会、人事委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会が置かれる。市区町村レベルでは、人事委員会又は公平委員会が置かれることがあり、農業委員会、固定資産評価審査委員会が置かれる。これらの執行機関は、国の法制によって、種類や必置又は任意設置が決まっており、自治体による自主的な組織編制は困難である。
このように、表面的には全て国法による規定という意味で、各執行機関は同格のようである。しかし、実態においては、執行機関の中での首長の存在感は圧倒的である。その要因は様々ある。一つには、法制上の仕切りがある。例えば、予算調製・予算提案・予算執行は、他の執行機関のものを含めて、首長が一元的に持っている(地方自治法149条)。首長には統轄代表権が認められ(地方自治法147条)、また、総合調整権があるとされる。
そして、制度上の大きな差異は、首長が住民から直接公選される、憲法上の制度である(憲法93条2項)。この制度は、住民からの民主的正統性を与える。他の執行機関は、住民から直接に選挙されないので、住民からの民主的正統性を持たない。これに対して、首長は公選職であるから、住民からの民主的正統性を主張できる。これは単なる正統性に係る規範的な主張にとどまらず、政治的な権力につながる。その意味で、首長は他の多数の執行機関に対して、強力な存在なのである。それ以外にも、仕える職員数が多いとか、担当する行政分野が広いとか、執行する予算規模が大きいとか、行政資源の実体上の潤沢さという理由もある。
執行機関多元主義といいながら、実態は首長優位であるから、多元性は減殺されているとはいえよう。とはいえ、団体の中での機関の多元性という観点からは、執行機関という「格」を与えられた機関は、実務の運用においても、他の補助機関よりは多元性を発揮しやすい基盤はあるといえよう。
補助機関の多元性
執行機関にせよ議事機関にせよ、それは団体の意思を決定する機関である。しかし、これらの機関が意思決定を行うためには、様々な補助機関が準備や支援をしている。そして、その組織は様々に分化して、多元的な機関となっていることが普通である。つまり、首長の補助機関として、単一の「事務局」、「事務方」が存在するというよりは、多数の部局・課係に分化している。
さらに、附属機関として、一定の自律性を持った機関も置くことができる。これは、審議会・審査会のような名称のことが多く、第三者委員会の一種と考えられている。もっとも、附属機関である審議会・審査会と、執行機関としての委員会・委員の第三者性の差異は、連続帯にあるといえる。審議会・審査会の事務局は、通常は首長部局の部課が担うが、委員会事務局は、制度的には首長部局からは独立している。しかし、職員構成の面からいえば、双方に大きな違いはない。また、審議会・審査会でも、決定における同意や審議などの関与権限や行政不服審査の裁決など、法律上の立て付けによっては、首長部局からの自律性を大きく持つこともできる。
ピラミッド型の階統制では、補助機関は下方(下の階層)に向けて組織は分化するとしても、上方(上の階層)に向けては徐々に統合しているので、最終的には執行機関である首長のもとに、一元的な「首長部局」を構成している建前である。しかし、現実には、各部各課間での意思の相違は頻発することもあるので、補助機関は多元的な様相を呈する。そして、実務の運用によって、どの程度が統合し、どの程度が多元的に分裂しているのかは、いろいろであり得る。いえることは、潜在的に補助機関は多元性を持っており、補助機関同士の調整の度合いが重要であること、また、補助機関(事務方)と執行機関(首長)との関係も一枚岩とは限らないこと、である。
他の執行機関の補助機関は、通常は、○○委員会事務局のようなかたちで、一元的なように見える。議会においては議会事務局という。しかし、この事務局が内部でさらに分化していることはないわけではない。特に、教育分野のように、所掌事務や担当人員が多くなると、教育委員会事務局又は教育庁の中で、○○部○○課などの機関が分化していくことになる。その限りでは、委員会事務局が一枚岩であるとも限らない。議会事務局でも、課が分かれることはある。結局、組織の規模が大きくなれば、補助機関は分化するようになり、機関間関係は多元性を帯びてくる。
首長以外の執行機関は、実体的には、首長部局の各補助機関と同じように、一定の政策・行政分野を担当する機関として、分化した機関という位置付けが普通であろう。そのため、例えば、予算をめぐって、財務部と健康福祉部との同一執行機関内の補助機関同士の機関間関係と、財務部と教育委員会事務局との異なる執行機関間の補助機関同士の機関間関係とは、さらには、財務部と議会事務局との執行機関・議事機関をまたがる補助機関同士の機関間関係とも、大まかには似ている機関間関係であるということもできる。
もっとも、そうはいっても、法制上の事務処理上の権限配分は、事案や政局によっては、大きく影響するので、健康福祉部よりは教育委員会事務局の方が、より自律性が強いことは多い。つまり、教育委員会は、執行機関多元主義が想定するほどには、首長からは自律はしてないが、首長部局の各部課との対比では、教育委員会事務局はそれなりの自律性を得ていることが多い。
