本特集の振り返り
第1回では、議会基本条例の全国的動向と課題を確認した。2006年の北海道栗山町議会基本条例を契機に、議会基本条例制定の波は全国へ拡大してきた。2025年3月時点で1,000以上の議会が制定している。
議会基本条例を制定する意義はあるものの、筆者は気になる点がある。一部の議会基本条例は制定だけで終わっており、何らアクションが見られない(これは論外である)。条例名に関していうと、99.7%が同型的条例名である。
また、議会基本条例に用意されている構成や各条文が、ほぼ似通っていることも気になる。すなわち、「その議会ならでは」の地域性や独自性が欠如している点が、筆者には疑問である(何度か言及しているが、「議会基本条例に独自性や地域性は必要ない」という意見もあると思う)。多くの議会基本条例が画一的である。そのような中、太子町条例は、「太子町」議会ならではの地域アイデンティティを取り込み、新機軸を打ち出した条例として、筆者は評価している(これからは、もっとユニークな議会基本条例が登場してもよいと考える)。
第2回は、太子町議会の条例制定の経緯と特徴を説明した。実際に太子町条例の制定に関わった当事者の見解である。太子町条例は、2024年に議員全員が参加する議会改革特別委員会を設置し、約1年の協議を経て制定した。特徴は、①「和」の精神を基調とする、②町民との共創を志向する、③アクセル条例を基本とする、④分かりやすい条文を意識する、などである。ここでいうアクセル条例は、「政策実効性を基本に置き、既存の法体系を飛び越えた条例」である。そして、「不確実性が高くても条例を制定し、既成事実を積み重ねて法体系を変えていく」思考である。
また、太子町条例制定後はPDCAによる検証を重視し、「条例制定を目的化しない」姿勢を目指している。
第3回と第4回は、自治体総合フェアのカンファレンス「ヤバい議会基本条例の制定とこれから」のパネルディスカッションを簡単にまとめた。
筆者は、太子町条例を「ヤバい条例」と捉えている。「ヤバい」という言葉は、もともと「やば」という語があり、それから生まれたといわれている。「やば」を辞書で調べると「法に触れたり危険であったりして、具合の悪いこと。不都合なこと。あぶないこと」とある。
一方で、大学生など若い人が使う「ヤバい」は意味が違ってくる。例えば、「昨日見たYouTube超ヤバいよね」と発言することがある。この場合はプラスの評価で使われている。特に若い人のいうヤバいは、「かっこいい」や「すばらしい」といった肯定的なニュアンスを持つ傾向が強い。本稿で使用している「ヤバい」とは、「革新的でかっこいい」という肯定的意味である。
太子町条例は、議会改革のエンジンとして位置付けられている(太子町条例に限らず、議会基本条例の機能として議会改革のエンジン性があることは、第5回でも言及している)。また、議員間の信頼醸成、住民との対話重視の姿勢を基本的な柱としている。一方で、太子町条例には課題もある。それは、まだ運用していない条文がある点だ。例えば、議長への手紙、議会表彰制度、主権者教育などである。今後は制度の運用が求められる。
第5回は、議会基本条例を客観視する立場から言及している。特に、議会基本条例の制定後は、条例に明記している内容の実践的義務を伴うと強調している。議会基本条例の意義として、住民との対話や政策提案の仕組みを整え、議会がより開かれた存在になることがある。
太子町議会に加え、奥州市議会、国立市議会の事例を踏まえ、住民との意見交換会や子ども議会、AI活用など、時代に合わせた多様な取組みを例示している。開かれた議会であり、対話する議会といえる。そして、議会基本条例は「つくること(制定すること)」よりも「実践し、検証し、進化させること」が求められる時代に入ってきたと主張している。
以上が、本特集の今までの簡単なまとめである。
