2025.11.25 政策研究
第28回 「地方創生」の現状と課題
地方創生のはじまりと狙い
ここでは、地方創生のはじまりと狙いを振り返ってみましょう。地方創生は、いわゆる増田レポートが「地方消滅」の警鐘を鳴らしたことがキッカケとなっています。2014年11月には、「まち・ひと・しごと創生法」が制定されました。
まち・ひと・しごと創生法は、目的を定めた1条において、「この法律は、我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくためには、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進すること(以下「まち・ひと・しごと創生」という。)が重要となっていることに鑑み、まち・ひと・しごと創生について、基本理念、国等の責務、政府が講ずべきまち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための計画(以下「まち・ひと・しごと創生総合戦略」という。)の作成等について定めるとともに、まち・ひと・しごと創生本部を設置することにより、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施することを目的とする」と規定されています。
そして、基本理念を定める2条において「まち・ひと・しごと創生は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない」とし、「国民が個性豊かで魅力ある地域社会において潤いのある豊かな生活を営むことができるよう、それぞれの地域の実情に応じて環境の整備を図ること」「日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスについて、その需要及び供給を長期的に見通しつつ、かつ、地域における住民の負担の程度を考慮して、事業者及び地域住民の理解と協力を得ながら、現在及び将来におけるその提供の確保を図ること」「結婚や出産は個人の決定に基づくものであることを基本としつつ、結婚、出産又は育児についての希望を持つことができる社会が形成されるよう環境の整備を図ること」「仕事と生活の調和を図ることができるよう環境の整備を図ること」「地域の特性を生かした創業の促進や事業活動の活性化により、魅力ある就業の機会の創出を図ること」「前各号に掲げる事項が行われるに当たっては、地域の実情に応じ、地方公共団体相互の連携協力による効率的かつ効果的な行政運営の確保を図ること」「前各号に掲げる事項が行われるに当たっては、国、地方公共団体及び事業者が相互に連携を図りながら協力するよう努めること」という七つの事項を示しています。
そして、国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を定めた8条2項において「目標」「基本的方向」等を定めることを規定しています。同条3項において「まち・ひと・しごと創生本部は、まち・ひと・しごと創生総合戦略の案を作成するに当たっては、人口の現状及び将来の見通しを踏まえ、かつ、第12条第2号の規定による検証に資するようまち・ひと・しごと創生総合戦略の実施状況に関する客観的な指標を設定するとともに、地方公共団体の意見を反映させるために必要な措置を講ずるもの」と規定しています。そして、都道府県や市町村における「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(=「地方版総合戦略」)についても、9条、10条において、「目標」「基本的方向」等を定めることになっています。
なお、附則2項において、国は、この法律の施行後5年以内に、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものと規定しています。
求められた〈「地方版総合戦略」策定の努力義務〉と〈交付金の交付要件としての「地方版総合戦略」策定〉
渡部朋宏が述べるように、「地方版総合戦略」の策定は努力義務であり、法的拘束力を有するものではありませんが、国の交付金を受けるためには地方版総合戦略に当該事業を位置付けることが必要であり、実質的には国が定めた指針に基づく事業展開が求められています(渡部 2024:152)。
ここでいう地方版総合戦略に位置付ける必要のある事業に対する交付金は、従来からある地方交付税や補助金等の国から地方への移転財源と比較すると少額ですが、①国が地方創生担当大臣を任命して積極的に取り組んだこと、②自治体の財政状況が厳しいこと、③国が自治体の個々の事業を公表したこと、④マスコミが取り上げたこと、⑤首長が他自治体と競争したこと、⑥議会が関心を持ったこと、⑦ハード事業だけでなくソフト事業も交付金の対象事業となったこともあり、全ての自治体(都道府県、市区町村)で、2015年から地方版総合戦略が策定されてきました。ここに示した①~⑦の事柄は、2025年現在も続いており、当面は自治体が地方版総合戦略とそれに基づく交付金事業に積極的に取り組むことが見込まれます。
なお、2025年度の地方創生関連の当初予算額は2,037億円であり、2026年度概算要求額は2,444億円となっています(内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局=内閣府地方創生推進事務局・地方創生推進室 2025:2)。
