5 主権者教育の推進
最後に、主権者教育について述べる。国立市議会基本条例では、主権者教育に関する規定はない。しかしながら、上記2で触れた住民参画に関して2024年は趣向を変え、「こどもの意見をきく会」として、国立市内の子育て支援施設にて、来所している子ども向けに実施された(15)。付箋に意見を書いてもらう形で、約300件の意見が集められたという。子どもからの意見を集める趣旨での工夫ではあるが、主権者教育の観点からは子ども議会の開催を提案したい。子ども議会については2024年12月31日現在、全国188の市議会、実に2割以上の市議会が導入している(16)。特に愛知県新城市は主催が執行部側ではあるが、市内に在住、在学及び在勤のおおむね16歳から29歳までの若者による若者議会を条例設置している。国立市議会においても、市民団体が主催する子ども向け職業体験イベントの一環で、模擬議会を実施している実績はある。このような取組みを通じて主権者教育を行うことは、投票率向上への寄与のみならず、政治に参画する意識付けにつながることが期待される。また、多様な世代の意見が政策に反映されることで、より包括的な全世代型の地方自治の実現が可能となるのではないか。
太子町議会基本条例では、11条6項に「議会は、主権者教育を推進し、次世代の議員候補者育成に努めるものとします」との規定がある。主権者教育の推進を議会基本条例で明文化している議会は少なく、2024年6月に神奈川県寒川町議会が全国で初めて規定したとされている(17)。その後、岡山市議会や神戸市議会などが条例改正に合わせて規定しているが、太子町は次世代の議員候補者育成を規定していることに大きな特徴がある。
奥州市議会基本条例には主権者教育に関する規定はないが、議長マニフェスト(18)において「議員の成り手不足解消の調査研究と対策の実施、主権者教育の推進に努めます」と掲げられている。市内の高校を通じて、市議会だよりへの高校生の寄稿を依頼し、高校生の議会傍聴なども行われている。
主権者教育を議会が行うべきか否かについては議論もあろうが、その必要性については異論もないであろう。筆者は昨年春まで6年間、立教大学で兼任講師を務めていた。国政選挙や地方選挙があるたびに、学生たちに「投票に行ったか」と聞くのだが、半分も手が挙がらない。行かない理由を尋ねると、「面倒くさい」、「誰がやっても同じ」とテンプレートのような回答が返ってくる。そのときには二つの話をしていた。一つ目は、いわゆる「シルバー民主主義」である。総じて若者よりも高齢者の方が投票率は高く、ましてや絶対数が倍以上であるため、投票者の構成においては2倍どころの影響力ではなくなる。一人でも多くの若者が投票に行かなければ、国も地方も若者に目を向けない。この世代間の票の重みの不均衡を具体的に示す資料として、筆者は学生に対し図2のような図を用いて説明していた。
出典:総務省「第50回衆議院議員総選挙年齢別投票者数調(抽出調査)」より筆者作成
図2 世代別投票シェアと投票率分析
この図が示すように、投票率の低さと有権者数(パイ)の少なさが相まって、18歳〜29歳の若年・青年層の投票者シェアはわずか8.5%にとどまり、70歳以上(30.4%)の約3分の1以下という構造的な格差が生じているのである。また、投票する側の問題だけではなく、地方議員の平均年齢についても併せて見ていく必要がある。全国市議会議長会の調査(19)によれば、市議会議員の平均年齢は59.2歳であり、全国町村議会議長会の調査(20)によれば、町村議員の平均年齢は64.6歳である。住民の代表にも若者が圧倒的に少ないことをデータで示すことで、ようやく彼らは自分事に感じてくる。
二つ目に、過去の首長交代によって大きく政策転換が行われた実例を話して聞かせる。誰が首長になって、どういった議会構成になるかによって自治体にどのような変化があるのか、若者には実感として分かりにくい。実際の事例を話して聞かせると彼らは非常に驚き、誰がやっても同じ「ではない」と知ることになる。こうした実態を知り、将来に対して責任がある職業であると知ることによって、自らが立候補しようと決意する若者も出てくるのではないだろうか。
