2025.09.25 政策研究
第26回 「市民・自治体・国・国際機構の関係」と外交
結び
本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で、意識すべきものとして、「『市民・自治体・国・国際機構の関係』と外交」と、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。
- 市民は自治体・国に直接信託し、国際機構には国を通じて間接信託を行います。そして市民は、同様に自治体・国・国際機構という三つの政府を制御します。また、三つの政府から市民はサービスを受けます。自治体・国・国際機構は、三つの政府間及び市民との間で、連携・協力することもあります。
- 自治体・国・国際機構の所管事務が適正に行われるためには、第1に、その内容が条例(自治体)や法律(国)や憲章・規約(国際機構)に根拠を持つという正統性と、所管事務の内容が妥当であるという正当性を持つことが必要です。第2に、所管事務について俯瞰できる総合計画及び所管事務個々の個別計画が必要になってきます。そして、第3に、計画を実施するための政策資源(人・財源・施設・土地・情報・権限・時間等)が必要となります。
- 今日の日本は「自治体と国の〈議会優位の「分権─融合」型政府運営〉」を目指しているといえます。
- 国際機構は、国間ないし国の関係を超えた事項を扱う政府です。国際機構は、国連つまり〈国際政治機構〉だけでなく、〈国際専門機構〉が成立しています。これらは、それぞれの専門政策領域で、独自に国際世論を結集して、議会型調整・統合を果たします。
- 国際社会でも、戦争型〈闘争〉は、各国際機構における議会型〈競争〉に置き換えられて、国際立法を積み重ねます。しかし残念ながら、世界レベルで見た場合、人口・貧困・衛生・医療・食料・エネルギー・経済・民族・宗教・言語等の問題を伴いながらの闘争(戦争、紛争)に見られるように、その歩みには時間がかかってしまうのが現実です。
- 国際市民ないし市民型NGOも世界を舞台に活動し、成果を上げています。
- 時に「ブラックボックス」は「知ってはいけない闇」あるいは「知る必要のない闇」として、毎日を忙しく暮らす私たちの心から薄れ、忘れられてしまいます(=「ブラックボックス解明意識の喪失」)。
- ブラックボックスの解明が進み、問題が分かっていても、解決に至らないことが少なくないのです。なぜなら、そこにはいわゆる各国各地域の国内・国外事情があるからです。この事情には、政治的な事情、経済的な事情、宗教的な事情、歴史的な事情など様々なものがあります。私たちには、このような事情を超克することが求められているのです(=「ブラックボックス不解明事情の超克」)。
- 外交は万能ではないし、外交には様々な制約や限界があります。それでも、論じ、理解を深めることが平和への第一歩です。
- 外交慣例は政府や国民による理解と尊重、及び外交に携わる者の自覚が伴ってこそ持続し得るのです。
- 一般に、交渉が妥結するには、互いの利益を調整する必要があり、その過程では相互の譲歩が求められます。問題は、一方的譲歩にあります。
- 一方的な譲歩に終わると、宥和は「悪しき宥和」となります。
- 外交は相互の譲歩によってこそ持続可能な平和につながります。
- 外交に携わる者は、外交を制約する国内圧力を正確に認識した上で、それを和らげる努力を惜しんではなりません。
- 国内圧力には、「空気」があります。
- 外交は、国だけが行うわけではありません。個々人や集団グループの市民が、また自治体や民間部門が、外交を直接担ったり、他の主体が行う外交を補助・支援することもあるでしょう。市民も議員もそのとき外交する者である外交員(≒外交官)になるのです。
- 外交する者には、「個の力」が求められます。
- 外交する者としての議員には、「観察者」「伝達者」「交渉者」の役割があり、その資質としては「知力」「誠実さ」「勇気」が求められます。
- 国際政治の本質は権力政治です。協調よりも競争が、法よりも力が、国際公益よりも国益が幅を利かすのです。対立と紛争は絶えず、戦争も起こるのです。力のある大国は覇権を求め、自らの国益と理念に基づく国際秩序を打ち立てようとします。
- 現代においては社会の規模の大きさ、問題の複雑さ、マスコミの操作性などを考えると、完全な判断のできる市民を期待することは困難ですが、そういう点については専門家も同様です。そこで、あまり完全性を求めないで、「それなりの市民」という基準を立てるべきです。
- 「それなりの市民」でもよいのですが、「自己反省力」と「良心」を持っていることが前提条件となります。
- 「自己反省力」は、心を落ち着けることにもつながります。「良心」は、あるときは協調することが良心の発現であり、あるときは誤った秩序にあらがうことが良心の帰結であることもあります。
- 地域の殻に閉じこもり内々だけの議論をしている議会であってはなりません。当該自治体の行政や他の自治体、そして国や国際機構等と連携・協力して、地域の課題そして世界の課題を解決していくことが求められています。世界の課題は、地域の課題になるからです。
- 私たちは海外での出来事でも地域に影響をもたらすことから、何らかの働きかけとそのために必要な連携・協力をすることが求められます。自治体議会はその先頭に立つことが期待されています。そして、議会がその期待に応えるためには、〈「政策力」の蓄積〉と〈「政策力」の成熟と洗練〉が必要になります。これは議会の政策課題です。なお、ここでいう「政策力」とは、全ての政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)に関する「力」を指しています。
■参考⽂献
◇天川晃(1984)「地⽅⾃治制度の再編成─戦時から戦後へ」年報政治学vol.35、205~229⾴
◇篠原一(2004)『市民の政治学─討議デモクラシーとは何か』岩波新書
◇小原雅博(2025)『外交とは何か─不戦不敗の要諦』中央公論新社
◇松下圭⼀(1991)『政策型思考と政治』東京⼤学出版会
