2025.09.25 政策研究
第26回 「市民・自治体・国・国際機構の関係」と外交
「『それなりの市民』と『自己反省力』」、求められる「多様な視点」
篠原一は、「(ダールは)〔( )内は筆者補〕現代においては社会の規模の大きさ、問題の複雑さ、マスコミの操作性などを考えると、完全な判断のできる市民を期待することは困難であるが、そういう点については専門家も同様である。そこで、あまり完全性を求めないで、『それなりの市民』という基準をたてるべきだ」といいます(篠原 2004:197)。「市民社会においては、『それなりによい市民』が増えていけばよいのであって、完全な市民というイメージを想定したら、市民などは存在しなくなってしまう。こういう市民は、まず機会ごとの(オケーショナル)、断続的な、さらにパートタイム的市民であればよい。つまり問題の発生したときに政治に参加し、またそれは継続して行うものでなくともよく、また参加するときもパートタイム的であればよいということであろう」(篠原 2004:197-198)。「彼(=ダール)〔( )内は筆者補〕の市民論は普通の市民の無限の可能性に対する、むしろ楽観主義的な期待に裏付けられたものである。(中略)ふつうの市民への期待がつねにその底流にながれているのである」(篠原 2004:198)と述べています。
このような「それなりの市民」というダールの考えは、「人は万能ではない」ということを前提とすれば妥当であるといえます。ただし、「それなりの市民」でもよいのですが、「自己反省力」と「良心」を持っていることが前提条件となるのではないでしょうか。そうでなければ、私たちは過ちを繰り返してしまいます。「自己反省力」は、心を落ち着けることにもつながります。「良心」は、あるときは協調することが良心の発現であり、あるときは誤った秩序にあらがうことが良心の帰結であることもあります。
なお、「それなりの市民」としては、表3に示すような視点を持っていることが必要であると思われます。
出典:筆者作成
表3 「それなりの市民」が持っているべき視点とその効果
グローバル化した社会における自治体議会の役割──議会は海外での出来事にも関心を持ち主体的な働きかけをすることが必要
社会の多様化、複雑化、さらにはグローバル化により、特定地域の問題であっても、その利害関係者は国際社会にまで及び、国際的な環境の中で利害調整を行い、合意を見いだしていくことが必要な案件が出てきています。逆に海外での出来事でも関心を持ち、主体的な働きかけをすることが必要な場合があります。
これらのことは、国際社会とつながった地方自治のあり方を指し示しています。自治体議会に焦点を当てれば、地域の殻に閉じこもり内々だけの議論をしている議会であってはなりません。当該自治体の行政や他の自治体、そして国や国際機構等と連携・協力して、地域の課題そして世界の課題を解決していくことが求められています。世界の課題は、地域の課題になるからです。
地球温暖化の防止策の実施はその典型です。しかし、足並みがそろわず地球は窮地のスパイラルに陥ってしまっています。地球温暖化が、食料問題に関わり、それが紛争につながることが想定されます。紛争が自国でなく他国で起きたとしても、そのことはグローバル化した物流経済のもとでは物価の上昇に影響を与えることにもなります。したがって、私たちは海外での出来事でも地域に影響をもたらすことから、何らかの働きかけとそのために必要な連携・協力をすることが求められます。自治体議会はその先頭に立つことが期待されています。そして、議会がその期待に応えるためには、〈「政策力」の蓄積〉と〈「政策力」の成熟と洗練〉が必要になります。これは議会の政策課題です。なお、ここでいう「政策力」とは、全ての政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)に関する「力」を指しています。
