2025.09.25 政策研究
第26回 「市民・自治体・国・国際機構の関係」と外交
“〈力を欠いた「悪しき宥和(ゆうわ)」〉と〈外交を制約する国内圧力〉”への対応が求められる
小原は外交交渉の特徴について、一つは非強制性にあるといいます。有無をいわさず、一方的に譲歩を迫る交渉がないわけではありませんが、それは交渉というより、力による強制と呼ぶべきです。一般に、交渉が妥結するには、互いの利益を調整する必要があり、その過程では相互の譲歩が求められます。問題は、一方的譲歩にあると述べています(小原 2025:266)。
一方的な譲歩に終わると、宥和(対立する相手を寛大に扱って仲よくすること)〔( )内は筆者補〕は「悪しき宥和」となる。外交は相互の譲歩によってこそ持続可能な平和につながるからだと小原は述べています(小原 2025:269)。そして、外交に携わる者は、外交を制約する国内圧力を正確に認識した上で、それを和らげる努力を惜しんではならないと述べています(小原 2025:272)。
なお、国内圧力には、「空気」があります。小原は、日本人が「時代の機運」に支配された背景には、山本七平が解明した日本的な「空気」があったと見ることもできよう。山本は、それを組織全体が集団催眠にかかったかのように「得体の知れないもの」によって意思決定がなされることだと説いた(『空気の研究』)と述べています(小原 2025:279)。
外交する者には「個の力」が求められる
外交は、国だけが行うわけではありません。個々人や集団グループの市民が、また自治体や民間部門が、外交を直接担ったり、他の主体が行う外交を補助・支援することもあるでしょう。市民も議員もそのとき外交する者である外交員(≒外交官)になるのです。
外交する者には、「個の力」が必要です。小原によれば、外交官には「観察者」「伝達者」「交渉者」の役割があり(小原 2025:280-281)、外交官に必要な資質について筆者(=小原)〔( )内は筆者補〕が重視する資質は、「知力」「誠実さ」「勇気」であると述べています(小原 2025:283-284)。この考え方によれば、外交する者としての議員には、「観察者」「伝達者」「交渉者」の役割があり、その資質としては「知力」「誠実さ」「勇気」が求められます。
戦後の世界秩序の終えん
国際政治の本質は権力政治です。協調よりも競争が、法よりも力が、国際公益よりも国益が幅を利かすのです。対立と紛争は絶えず、戦争も起こるのです。力のある大国は覇権を求め、自らの国益と理念に基づく国際秩序を打ち立てようとします(小原 2025:317)。20世紀、その地位に上り詰めた大国は米国でした(小原 2025:317)。
しかし、今日の世界秩序は、終えんに向かっています。秩序がなくなり無秩序となると、目指す方向性が混乱することになります。そのとき、私たちは小原がいうように、若い世代ほど自分たちの国の行く末に関心を持ち、大いに学んで研さんに努め、外交感覚を磨き、国益を託し得る代表を選ばなくてはなりません(小原 2025:342)。もっとも、このことは若い世代に限らず、老若男女に当てはまりますが、私たちは聖人ではありません。そこで、聖人でない私たちが、このことについて「どう考えればよいのか」のヒントになるのが、ロバート・ダール(1915-2014年、米国の政治学者)の「それなりの市民」という考え方です。
