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2025.09.25 議員活動

第28回 事故車であることが隠されて購入した車の契約を取り消すことはできるか

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弁護士 尾畠弘典

Q事故車であることが隠されて購入した車の契約を取り消すことはできるか。

A

自動車を中古で購入した際、購入時には知らされていなかった事故歴(車両の骨格部分の損傷や修復歴があること)が後から判明した場合、自動車の売買契約を取り消すことができる可能性が高い。

1 消費者契約法に基づく契約取消し
 消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報格差を是正し、トラブルから消費者を保護する趣旨で制定され、平成13年より施行されている。この法律は、消費者すなわち個人(事業として又は事業のために契約当事者になる場合を除く)と事業者の間で交わされる労働契約を除く全ての契約に適用される(消費者契約法1条、2条1項、48条)。
 消費者契約法上、事業者が消費者との契約に際して虚偽の説明をしたり、重要な事実を意図的に隠すことで消費者を誤解させ、その結果契約に至った場合、消費者はその契約を取り消すことが可能となる。
 設問については、個人が非事業目的で事業者から自動車を購入したということであれば、事業者の行為は不実告知(消費者契約法4条1項1号)ないし重要事項の不告知(同条2項)に当たり、消費者が事故車ではないと誤解したために当該契約をした場合には、消費者は当該契約を取り消すことができる。取り消した場合には、既払いの売買代金の返還を求め得る。
 なお、消費者が誤認に気づいて追認できる状態になった時から1年を経過するか、契約締結から5年を経過したときは、当該取消権は時効消滅する(同法7条1項)。

2 民法に基づく契約取消し等
 以上のほか、購入者が消費者か事業者かを問わず、民法に基づく契約の取消し等が可能な場合がある。

(1)錯誤による取消し
 契約の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な事項につき錯誤(勘違い)があるときは、その契約を取り消すことができる場合がある(民法95条1項)。自動車の取引においては事故車か否かは社会通念上重要な事項といえ、契約書や勧誘の際の書類の中に当該自動車が事故車ではないなどと記載があり、これを信じて購入した場合には本条による取消しが可能と解される。本条による取消権は、錯誤を主張する当事者が錯誤を知った時から5年を経過するか、契約から20年を経過した時に時効消滅する(同法126条)。

(2)詐欺による取消し
 詐欺による意思表示は取り消すことができるところ(同法96条1項)、事業者が意図的に事故歴を隠して販売した場合、本条による取消しも可能と解される。取消権の消滅時効については(1)と同様である。

(3)契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)による解除等
 令和2年4月に施行された改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」という呼称に変更となった。引き渡された商品が契約内容と異なる場合、買主が売主に対して追完請求(修理や代替品の提供)、代金の減額請求、損害賠償請求、契約解除をできるとするものである。なお、当該解除権等は、買主が契約不適合を知った時から1年以内に売主にその旨を通知しないときは、行使することができなくなる(同法566条本文)。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではない(同条ただし書)。

3 トラブルを未然に防ぐための注意点
 トラブルになった際、消費者が裁判で事業者の不当な行為を立証するのは容易ではない。そのため、特に高額な取引の場合は契約書による取引を求め、作成した契約書や交付を受けた書類は大切に保管し、事業者の口頭での説明につき録音やメモをとるなどして記録に残す等の措置をとることが肝要である。

4 消費者保護の動向と法改正
 近年の消費者保護法改正では、消費者が取消権を行使できる期間が延長、取り消し得る不当な勧誘行為の追加、無効となる不当な契約条項の追加など(平成28年、30年、令和4年)、消費者の保護がさらに手厚くなっている。また、不特定多数の消費者の集団的救済を実現すべく、平成18年の改正により消費者団体訴訟制度が設けられ、消費者団体が事業者の不当な行為(不実告知や誇大広告など)に対して差止請求を行うことができるようになったほか、消費者の集団的な財産的被害を回復する手続に関する特例法(消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)が平成25年に成立し、平成28年10月より施行されるに至っている。
 また、令和2年4月に施行された改正民法でも先述の契約不適合責任の導入に加え、定型約款に関する規定も新設されるなど、消費者の利益がより一層保護される方向へと進む傾向にあるといえる。
 トラブルに巻き込まれた際は、一人で抱え込まず、消費者ホットライン(188)や国民生活センターなどに相談することも有効な手段である。

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