2 99.7%が類似した条例名
本稿は、「問題提起」の意味を込めて言及している。現在の議会基本条例には、いくつか課題がある。既存の議会基本条例は、多くが同じようなパターンである。しばしば「紋切り型の議会基本条例」や「どこを切っても同じ顔の議会基本条例」といわれる。
例えば、条例名の多くは「○○市(町村)議会基本条例」である。個人的には面白みが感じられない(条例名に「面白みを求めない」という意見もあるだろう)。ここでいう面白みとは、地域性を反映し、独自性を生かした条例ということを意味する。
条例名が「○○市(町村)議会基本条例」となっていないケースは、「五所川原市市民に開かれた議会基本条例」(青森県)、「市民とともに未来をひらくいわき市議会基本条例」(福島県)、「和のまちをつくる太子町議会基本条例」(兵庫県)ぐらいである(本特集では「和のまちをつくる太子町議会基本条例」を対象としている)。
現在存在している議会基本条例の99.7%が「○○市(町村)議会基本条例」である。これでは、せっかく議会基本条例を制定しても、他の条例の中に埋没してしまう。筆者は、条例名ぐらいは、もう少しバラエティに富んでもよいと思っている(繰り返しになるが、「条例名にバラエティを求めない」という意見もあるだろう)。
さらにいうと、「○○市(町村)」を別の自治体名に変更しても通用する議会基本条例が多い(詳細は次節で言及する)。すなわち「その議会ならでは」が反映されていないことを意味する。
近年、議会基本条例を制定する機運が、再び高まりつつある。紋切り型の議会基本条例から決別し、「その議会ならでは」の条例名を考えてもよいのではないか。議会基本条例は変わる時に来ていると考える。
3 実は中身もほぼ同じかも……
A文章とB文章を比較して、双方の文章の類似性を確認できるサイトがある。例えば、Diffchecker(https://www.diffchecker.com)は、左にA文章を、右にB文章をコピー&ペーストすると、差分を色分けして表示してくれる。
Quetext(https://www.quetext.com)は、文章の一致率を表示してくれる。このサイトを活用すると、どれだけ模倣しているかが一目瞭然である。
これらのサイトは無料で使用できる(ただし回数制限がある)。そのほかPlagiarism Detector(https://plagiarismdetector.net)Text Compare!(https://text-compare.com)なども、文章の類似性を見いだすのに有効なサイトである。
余談になるが、筆者は、これらのサイトに加え、筆者の所属する大学が用意してくれているiThenticate(https://www.ithenticate.com/)を活用している(同サイトは有料であり、ログインが必要である)。ここで紹介したサイトを活用することにより、学術論文等の剽窃(ひょうせつ)や盗作をチェックしている(特に修士論文や博士論文の指導のときに活用している)。
前置きが長くなったが、議会基本条例の話に戻る。2006年に制定された栗山町議会、三重県議会、湯河原町議会を活用し、無作為で抽出した30議会基本条例の類似性を調査した。
結果をいうと、議会基本条例に記されている条文の46~92%が類似性ありと判断された(前文と附則は除いている)。
本稿で紹介したサイトは、「英語」における類似性を確認することが前提である。そのため、やや「日本語」は不向きともいえ、今回提示した「46~92%」は参考として捉えてほしい(さらにいうと、ある議会基本条例をチェックすると、76%と出たり、84%となったりと、調査するごとに類似性を判断する数字が異なる。その意味でも参考としてほしい)。
筆者は、あまりにも同じ記述(内容)となる議会基本条例は、「パクリ」ではないかと思っている(議会類似条例の登場である)。まさに「○○市議会基本条例」の「○○市」を自分の自治体名に変更しただけの条例といえる。このような条例に「魂」は入っているのだろうか。
多くの部分が類似していたとしても、議会基本条例を検討した当事者(議員)は、真摯に条文を考えたのだと思う。条文を考えるときに、先行条例(類似条例)を参考としたのだろう。それは決して悪くないかもしれない。そうであっても、先行条例の条文を多数採用しているところに(その多くが全く同じ)、議会としてのイノベーションは起きるのだろうか(議会としての矜持(きょうじ)はあるのだろうか)。
地方分権一括法以前は、国が自治体の条例制定に強く関与していた。国は「モデル条例」(標準条例)を用意していた。自治体はモデル条例とほぼ同じ内容で条例を制定していた。その結果、自治体の画一性が広がり、同じような(無味乾燥的な)政策が展開されていた。同じような取組みを実施しているため、自治体政策にイノベーションは起きなかった。
なお、地方分権一括法以降は、国が一方的にモデル条例を押しつける関係は、原則として解消されている(国が「参考例」としてモデル条例を示すことはある)。
イノベーションは経済学者シュンペーターが提起した概念である。シュンペーターは「イノベーションこそが経済発展の原動力」であると主張している。筆者はイノベーションが議会発展にも大いに貢献すると考えている。
