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2025.08.25 政策研究

第65回 経営性(その5):新公共経営(NPM)

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契約と経営権

 民間取引は契約を定めることによって、効率的・効果的な経営がなされると考えられる。契約とは、両当事者の自由な意思によって結ばれるので、強制によって自由を制約し、渋々・嫌々の業務遂行は避けられる。当事者の動機付けややる気は大事である。それゆえに、効率的・効果的な経営に資する。
 しかも、契約締結を強制することはできないから、あくまで両当事者にとってメリットがあることのみ、契約して実行する。つまり、一方が損をするような契約はあり得ないから、相互に改善するので、やる気も出よう。そして、契約を遵守しない場合には、裁判・判決と執行によって強制がある。もちろん、これは、あくまで自らが合意した内容に自縄自縛になるだけである。そして、契約の履行強制があるからこそ、各当事者は契約内容を実現しようと努力する。こうして、経営性が達成される。「経営者に経営させよ(Let managers manage)」という標語になる。
 そして、各当事者は、契約で定められた範囲内で、あるいは、契約で定められた義務を実行するために、尽力する。こうして、契約を結ぶことによって、契約当事者は経営者として経営を行うことになる。適切な経営をしなければ、契約違反・債務不履行として、制裁を受けるからである。ただし、強制されることが嫌なのであれば、そもそも契約を結ばない自由もある。
 これに対して、行政活動は、契約という両当事者の合意には限定されない。むしろ、当事者が同意しないことに対して、規制・強制をすることが行政の大きな役割である。そして、行政の目的たる公益性や公共の利益は、極めて多義的かつ流動的であり、事前に契約で決めることは容易ではない。そのため、目指すべき明確かつ具体的な目標がないから、行政職員は、何に向けて、何をどの程度、経営努力をするのかも不確定である。このため、行政は民間取引に比べて、非効率的・非効果的になりやすいわけである。
 そこで、行政内部において、人為的・擬似的に契約と経営権を設定する工夫が考えられる。これは、ある意味で、組織内分権であり、かつ、組織内集権である。契約で目標を設定(合意)して、結果が達成できたかが事後的に評価検証され、結果に応じた処遇(報奨か制裁)を行う意味では、組織内集権である。しかし、具体的な業務の進め方については、裁量が認められるわけであるから、いわば経営者としての自由を得るので、組織内分権である。
 例えば、大きなところでは、部門長と最高経営者が契約し、部門長に部門内の運営を委ねるという方策がある。小さなところでは、部下と管理職との間で目標を合意し、それに基づいて、目標管理と人事評価を行う。さらには、国と自治体の間でも、補助金にこのような契約手法を使うことができる。自治体は事業計画を国に提出し、国が採択(同意)することで補助金が交付され、事業計画に沿った結果が得られたかを国が評価する、という手法などである。
 もちろん、行政職員同士に適切な契約・検証をする能力がある保証はない。事前に適切な契約が結べず、どちらかのいいなりの不公正・不公平・不適切な契約になるかもしれない。そもそも、階統制という権力格差のもとで、公平な契約などを締結できるとは考えにくい。あるいは、事後的なモニタリングを適切にできる保証もない。また、契約どおりに事業が遂行できなくても、困るのは住民や受益者であって、契約解除や損害賠償をしても、取り返しがつかないこともある。契約と経営権は魔法の杖(つえ)ではない。

おわりに

 ある時期までは、「NPMの考え方に沿って」などという枕詞(ことば)が、自治体の行政改革大綱などには踊っていた。しかし、NPMの流行は去った。むしろ、人手不足で業務が回らない、デジタル化で突破する、などという議論が増えている。しかし、NPMの着眼点は消えるわけではなく、底流的にはずっと存在しているし、また、間欠的に大きく取り上げられることもあろう。

(1) 佐藤悠太「今後の行政組織のあり方を考える~NPMの振り返りを通じて~」(2024年3月12日掲載)(https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107442)。山中雄次『NPMの導入と変容─地方自治体の20年』(晃洋書房、2023年)、大住荘四郎『ニュー・パブリックマネジメント─理念・ビジョン・戦略』(日本評論社、1999年)。

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