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特集 今こそ見直す予算審議ー地方議員に求められる視点とは―

2025.08.12 予算・決算

対話の鍵を握るのは議員

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対話の鍵を握るのは議員

 ここであえて申し上げたいのが、議会、議員の役割です。私は行政と市民との対話を進めていく上で、職員だけでなく議会、議員もとても重要な役割を果たすと考えています。
 議会は何のために置かれているのか。それは、市民の人数が増え、直接話し合って物事を決めていくことが難しいので、自分の代わりとなる者をあらかじめ選び、その者に意思決定のプロセスを代理させるため。そうすることで意思決定の場に自分の意見を反映することができる、というのがよくいわれている議会の機能ですが、実際には数年に一度の選挙で選ぶ議員が、それぞれの政策決定において常に自分の意見と等しい行動をとるかというと、必ずしもそうではありません。そのために政党があり、マニフェストがあるのだという人もいますが、最近、私は少し別の見方をしています。
 それは、議員は有権者の「アバター」であるという考えです。RPGの世界ではなじみの深い「アバター」。仮想世界で生活するキャラクターを自分で選び(あるいは創作し)、そのアイコンに自分の思いを投影して、その仮想世界での生活をさせ、冒険や交流などの活躍をさせる、この自分の分身となるキャラクターを「アバター」といいます。
 アバターの活動は自分でコントロールすることもできますが、放置しておくとそのアバターのもともとの設定に基づいて勝手にその仮想世界での営みを進めてくれるというものも増えています。私は、間接民主主義における有権者と議員との関係は、まさにこの関係なのではないかと思うのです。アバターである議員が自分の分身として、どれだけ議論やその前段の「対話」をしているか、それを有権者がどれだけ知り得るか、その密度、解像度が濃ければ濃いほど、自ら「対話」の場に足を運ぶことができない(あるいは運ばない)市民にとっての「対話」の疑似体験になるのではないでしょうか。
 議会は議論の場、物事を最終的に決定する場ですが、その場に居合わせることができない多くの有権者にとっては、議員が議論していることがあたかも自分が議論しているかのように感じられる、自分の分身の役割を果たしてくれれば。
 あるいは、議論の前の対話の段階から、あるいはその前の雑談や愚痴の段階から、議員の活動を自分の分身として見守ることができ、そのアバターを通じて他の立場、意見を持つ人たちと意思疎通することができる存在であってくれれば。
 そうすれば、私たち有権者が自ら対話や議論の場に臨めなかったとしても、そこにいたかのように、自分が「対話」し、互いに情報を共有し、立場を超えて理解し合えたかのように感じることができ、その結果、議員同士での議論で導かれた結論にも当事者意識や納得感を持つことにつながるのではないでしょうか。

対話が本当に必要なのは誰

 私は思うのです。自治体職員が日々職場で議論や対話を重ね、庁内での合意形成を図り、方針を決定し、その方針に従って日々の事務を遂行していくこともまた、多様な意見を持つ市民の利害、意見の代弁者として、市民同士の対話や議論を代理しているのではないかと。
 自治体と市民との関係性も同じです。自治体は多様な市民の立場や意見を代弁し調整する主体ですが、自らの独立した意思を持つ主体ではありません。自治体が主張する意見や立場はすべて市民の誰かの意見や立場を集約し代弁しているものであり、自治体と市民との「対話」というのは多様な意見を持つ多種多彩な市民同士の情報共有、相互理解のためのものなのです。
 ということは、自治体が市民と「対話」ができないというのは、自治体で暮らす市民同士の「対話」ができないということになります。同じ地域に住み、同じ空間で生活を営む市民同士が互いに理解し合えない、心理的安全性を保てないというのは、とても不安で不幸なことです。
 市民が互いに安心して暮らせる心理的安全性。これを保持するために果たすべき自治体の「対話」に関する責任は重大です。市民が互いに自らを「開き」、相手を「許し」、認め合い、語り合い、手を携えて同じ方向に向かうためには、その意見や立場を代弁し調整する自治体が「対話」できなければいけない。つまり自治体職員一人ひとりが「対話」できなければいけないのです。

市民同士をつなぐ対話の懸け橋として

 市民同士の「対話」のためには、自治体職員一人ひとりが「対話」できなければいけない。このことは一般の行政職員はもちろんですが、首長や議員など、選挙で実際に選ばれる身分の人たちにこそ知っておいていただくべきことです。選挙で選ばれた自分が市民のアバターとして対話や議論を代位しているという自覚を持っていただくことがとても重要です。
 その前提として、市民の行政を読み解く力(リテラシー)の向上のためには自治体職員が「中の人」として外側に語ることも必要ですし、それを直接市民に届けることができないまでも、市民を代位している議員との間でしっかりと共有していくことがとても大事です。
 ところが、議会といえば旧態依然としたお山の大将の集まりで、俺が俺がという権力欲から他の議員、首長へのさや当てでまっとうな議事運営をストップさせてしまうようなケースもまだまだ散見され、それが自治体職員の議員への萎縮や市民の議会に対する失望につながっている面もあります。また、議員それぞれが市民から託された意見を述べ、議員同士が対話し議論する場面もなかなか見られません。
 そういった悪弊を一掃し、議会は市民同士の対話を代理しそれを市民に観覧してもらう劇場という本来の機能を期待どおり発揮するため、心ある議員の皆さんと一緒に、行政と市民の対話の橋渡し、つまりは市民同士の対話の実現に向けてこれからも尽力していきたいと思います。

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