市民は「政策」の何たるかを知らない
市民が納めた税金の使い道を自治体の側で決める以上は、何のためにお金を使うのか、その目的は我々が実現したい事柄か、その目的達成のために選択する手段が適切か、といった政策への評価が必要ですが、この「政策の評価」について、市民の日常生活で話題になることはほとんどありません。ひょっとすると、一般的な市民は「政策」というものが備えるべき論理の構造や政策を評価する際の基準や視点といったものを持ち合わせていないということかもしれません。
我々の周りには、我々が納めた税金で整備・運営されている施設、税金を原資に提供されているサービスがたくさんありますが、それは何のために行われているか、どうして税金がその原資になっているかを深く考えたことがありますか?
私は財政課在籍時にさんざんその議論をしてきました。自治体が行うあらゆる施策事業の目的を明らかにし、その目的を実現することの必要性、緊急性、公共性、さらには目的を達成する手段としての効率性、代替可能性、適法性など、税金を使って自治体が行うことの妥当性をチェックしてきました。この議論を通じて詰めていたのは、市民がみんなで納めた税金の使い道が、本当に市民みんなのためになっているのか、それは納税者である市民に納得してもらえるのか、ということの確認でした。
役所の中でこれだけ議論し、市民への説明責任を果たせるようにとチェックしているのですが、この努力そのものは市民の皆さんにどれほど知られているのか、そこで議論した内容や過程は届いているのか、少し疑問です。
市民は「財政」の何たるかを知らない
「政策」とは、ある公的な目的を達成するために行政が行う行為ですが、この「政策」にはほとんどの場合お金がかかります。このお金の話を抜きにして政策は論じられません。そんなにお金をかけてまで実現すべきことか、そのお金をどうやって調達するのか、お金の出どころから使い道の制限を受けないか、お金が足りないからといってもっと負担を求めることができるのか、など、政策にまつわるお金の話は尽きません。
このお金の話をきちんとするためには、自治体の財政構造やルール、すなわち何の名目で収入を受け取り、それは何に使われているのか、何に使ってはいけないのか、借金をしていいのはどういうときか、貯金は何のためにするのか、将来にわたって債務を負っていいのか、過去の負債をどうして払わなければいけないのか、など、自治体のフトコロ事情についてきちんと知っておかなければ、政策の実現についてリアリティを持って語ることはできません。
しかしながら、選挙で選ばれた首長も、それを選んだ市民も、公務職場で仕事をしている我々公務員と同等に自治体財政の知識を持ち合わせているわけではありません。だからこそ、自治体の財政状況や構造も理解せずにバラマキを求めたり、政策の目的と効果が整合しないものであっても耳障りのよい施策事業に踊らされたりして、いたずらにお金と能力を浪費してしまうのです。
このことを憂慮するのであれば、まずは自治体運営の「中の人」としてそのイロハを理解しているはずの職員自らが、自治体運営のプロとして自分たちの自治体の財政について、あるいは政策について、市民が分かる言葉で語ることができるようになり、自分の住むまち、勤める自治体でよりよい自治体運営を行えるよう、市民の行政運営リテラシーの向上に取り組んでいく必要があるのです。
