スクラップ&ビルドではなくビルド&スクラップ
前回(2025年7月25日号)の寄稿では、自治体の財政運営の根幹である「財政が厳しい」という言葉の意味について、自治体の財政構造や状況、将来見通しから説明し、「財政健全化」の意味についても併せて述べたところです。
自治体の財政運営において「財政が厳しい」、「お金がない」というのは、政策の推進に要する財源が足りないということであって、この財源確保のために既存の施策事業を見直すことが「財政健全化」であると前回述べました。「財政健全化」は目的ではなく、政策推進のための手段にすぎません。
何を削る(スクラップ)かではなく、何を残す(ビルド)か。行革の手法として長年全国の自治体で取り組まれてきた「スクラップ&ビルド」ではなく「ビルド&スクラップ」、すなわち新たな政策の推進という目的意識を持って既存の事務事業を見直していくことで、どのようなまちの将来像を目指すのかについて市民の理解を得ながら必要な施策へと財源をシフトしていく財政運営が求められているのです。
そのために市民と共有しておくべきこと
新たな政策の推進といっても、何を課題ととらえ、あまたある課題の中からどのような優先順位付けで取り組むべき政策課題を選択するのか、という点で議論がおろそかになってはいけません。そこで必要になるのが「ありたい姿」の共有です。どのようなまちの未来を目指すのか。どのような状態であることをゴールとするのかを行政内部、議会、市民が共有し、共通のビジョンを実現するために優先的に取り組む政策、施策を立案していくという手順を踏んでいくことが求められるのです。
行政内部、議会、市民が共有すべきは、目指すべき「ありたい姿」だけではありません。先ほど述べたビルド&スクラップという政策選択の構造や、その前提となる自治体の財政構造、財政状況、将来見通し、なぜ「財政が厳しい」といわれるのか、といった基礎的な知識についても、政策推進や財政健全化の取組を進める前提となる基礎知識として共有しておく必要があります。
その上で、「ありたい姿」を実現するために行う政策、施策事業がきちんと効果を発揮し、みんなで共有した将来像に結びつく手法なのか、といった個々の取組に対する事前評価、事後評価についても情報を共有し、その取組が十分効果を発揮していない場合にはその取組自体を改善改革していく必要があり、この点についても行政内部、議会、市民としっかり共有しておき、この三者のコンセンサスの下で事業を実施し、政策を推進していく必要があるのです。
