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2025.07.25 政策研究

第64回 経営性(その4):公営企業

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公営ワイン事業

 公営事業にはいろいろなものがあり得るが、ここでは、地域おこしの「伝説」ともいうべき、ワイン事業を取り上げてみよう。戦中から戦後期にかけて、アルコール専売事業がなされてきたが、これは工業用アルコールである。しかし、嗜癖(しへき)につながりやすい飲酒用アルコールも、通常的にも多くの人が「嗜(たしな)む」ために、「親方日の丸」の官営事業でも経営が成り立ちやすいのかもしれない。この点、官営・公営事業は、「嗜癖」的
な酒・たばこ・ギャンブルでは、他の事業よりは、簡単かもしれない。とはいえ、実際には、飲料用アルコールは、洋酒の輸入を含めて、一定の市場競争にさらされてきた。
 なお、酒類の製造及び販売業に関しては、酒税の確実な徴収と消費者への円滑な転嫁のために免許制度が採用されている。自治体が公営アルコール事業を営むためには、免許制度による国の規制を突破する必要はある。しかし、この論点は、経営性の問題ではないので、ここでは深く立ち入らない。
 ワイン事業で著名な北海道池田町は、ワイン事業の独立採算制の経営を行ってきた。池田町の組織は以下のとおりである(2025年度)(3)(4)

  • 出納室
  • 総務課
  • 企画財政課
  • 地域振興課
  • 税務課
  • 町民課
  • 福祉課
  • 保健子育て課
  • 農林課
  • 建設水道課
  • ブドウ・ブドウ酒研究所
  • 教育委員会
  • 議会
  • 監査委員
  • 農業委員会
  • 選挙管理委員会
  • 池田消防署


 ワイン事業を担っているのは、著名な「ブドウ・ブドウ酒研究所」であり、実質的には部相当の巨大組織である。というのは、研究所の内部に、営業課(ブドウ総務係・営業係)、製造課(醸造係・品質管理係・栽培係・研究開発係)、東京事務所が置かれているからである。池田町役場の首長部局のほかは課制であり、総務課、企画財政課、地域振興課、税務課、町民課、福祉課、保健子育て課、農林課、建設水道課となっている。このほかに、教育委員会(教育課)・監査委員・農業委員会・選挙管理委員会という他の執行機関や、やや独立した池田消防署(内部は係制なので、実質課相当)が置かれる(5)
 ワイン事業の採算経営は、約束されているわけではない。「池田町ブドウ・ブドウ酒事業経営戦略(2022年3月改定)」によれば、「地方公営企業法に定める経費負担の原則に則り、独立採算制を堅持しています。その堅持のため、売上の確保と費用削減に努めておりますが、企業努力では吸収できないコスト急騰時においては、商品1本あたりの価格を増額する改定を実施してきました。また、事業の安定、健全化のためには、事業の根幹である原料供給の安定が求められます。そのため、町内外の生産圃場の適正管理はもとより、ふるさと寄附金を原資とし、寒冷地に適したブドウの研究及び開発事業を推進しています。平成26年度予算から適用された地方公営企業会計制度の見直しの際は、専門家の見解を参考に、破産更生債権の設定、当該債権に対する貸倒引当金の計上、その他引当金の積極的な計上など、民間の会計基準との整合性を高め、保守的な財務状況となる移行処理を行いました」とのことである。
 収支経営状況では、出資企業の清算や地方公営企業会計制度の見直し(制度改正)などにより、多額の損失を計上する年度もあったが、これまで安定して純利益を計上している。ワイン城改修事業(2017年度~2019年度)を経ても、なお610,622千円(うち、その他未処分利益剰余金変動額184,974千円)の繰越利益剰余金を有している(2019年度末日)。とはいえ、減収減益の傾向が続き、その体質からの脱却が求められている。
 経営方針は以下のとおりである。ワイン事業は、ブドウ栽培による「農業振興」を目的としている。その後、ワインの製造、販売へと発展し、産業振興や地域の活性化に寄与してきた。1963年の果実酒類の試験製造免許の取得から60年近く(2022年当時)が経過している。近年では、少子高齢化や健康志向による飲酒人口の減少、輸入ワインを中心とした低価格競争の激化など、厳しい市場環境の下にある。一方で、国産ブドウのみを原料とした「日本ワイン」は安定した人気があり、市場は堅調である。そこで、これまで以上に個性や地域特性の強みを生かしたワインづくりを推し進める。町の経済(雇用)を支えている公営企業として、安定的な事業運営に向け、販売力強化とコスト縮減、効率的な生産体制の確立を図り、何よりも、これまで以上に時代のニーズに合った魅力あるワインづくりを目指すという。
 経営戦略はあくまで計画であるから、将来に向けて、V字回復を目指すような志向はある。実際に経営性が確保されるかは不明であるが、公営事業として自治体が行う以上、収支採算による経営性が不可欠なのである。

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