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2025.07.25 政策研究

第64回 経営性(その4):公営企業

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公営企業経営の限界

 独立採算制が成り立つような事業であれば、民間営利企業でも存続できるから、公営企業である必要はないかもしれない。とすると、公営企業は独立採算が困難であることが、一般的には想定される。住民の福祉増進のための事業をすると、赤字経営になりがちで、民間営利企業では事業から撤退しかねない。しかし、住民の福祉増進の観点からは、当該事業(財又はサービスの提供)が必要だと自治体が政策判断するのであれば、赤字経営でも存続しなければならない。そのような事業こそ、公営企業による事業が必要ならば、独立採算は困難であり、上記のとおり、自治体の財政からの補塡・支援(一般会計操出金など)が必要になることが多いだろう。
 もちろん、論理的には、独立採算が可能な事業範囲でも、住民の福祉増進により寄与するような事業経営と、あまり寄与しないような事業経営と、経営方針によって左右され得るから、その限りでは、独立採算制が可能でも公営企業形態をとることに意味があるかもしれない。もっといえば、公営企業を黒字経営することで、その余剰の収益を自治体自体に回すことができるようになり、公益に資するという考え方もあろう。
 例えば、公営競技は必ずしも公営企業会計を適用するとは限らないが、公営企業とすることもある。そして、公営競技の「賭博」の違法性を阻却するためには、公益性すなわち財政寄与が求められることがある。そこで、特別会計から収益を一般会計操入金とすることもある。もっとも、公営競技は異例のものであろう。そもそも、公営ギャンブルというサービスが、公益性があるのかは疑わしい。したがって、採算がとれずに破綻したら、それで全く問題がない。もっとも、人間はギャンブル依存症など「愚か」であるがゆえに、また、賭博は違法とされて合法的供給が限られているがゆえに、ギャンブルは誰が経営しても儲かる傾向がある(2)。そのような悪徳をあえて粉飾するのが、財政貢献による公益性である。

公営(自治体経営)主義

 かつて、イギリスの19世紀末から20世紀初頭にかけての「公営主義」では、自治体が地域独占の公益事業を経営することで、住民に公益サービスを提供するとともに、財政的な収益を上げるという経営モデルもあった。しばしば、自治体が主導して財・サービスを直接に提供して、住民福祉を向上させるので、一種の「社会主義」的施策と考えられた。「都市自治体社会主義(municipal socialism)」とか、「ガスと水道の社会主義」(フェビアン協会)と呼ばれた。
 国レベルの社会主義政策が、20世紀後半において、しばしば、「国有化」、「公有化」を意味してきたのは、民間企業を国有化・公有化し、国営企業・公営企業とし、そして資本主義的な利潤原則に縛られず、財・サービスを社会主義的あるいは公益的に提供・配分することが期待されるからである。そして、ガス、水道ならば、まだ料金収入によって企業的に経営することができるからである。
 もっとも、その後の「福祉国家」では、必ずしも国営企業・公営企業を前提とするものではない。社会保険は、保険原理に立脚しているという意味では、株式会社や相互会社でも保険経営が可能なので、まだ、国営企業・公営企業に近い運用もできたかもしれない。とはいえ、現実には採算確保が困難であり、強制加入の社会保険と公定価格・準市場によるサービス提供となり、もはや国営企業・公営企業とはいえない。さらにいえば、公衆衛生や社会福祉・公的扶助は、もはや企業的な収入による独立採算は見込めない。そのため、福祉国家においては、必ずしも、国営企業・公営企業が当然視されることはなくなった。
 都市社会主義にせよ、国レベルの社会主義=国有化にせよ、現実には資本主義市場経済の環境の中での経営である。したがって、利潤や価格をどのように設定するかにおいて、公益的な観点から一定の裁量はできるとしても、広い意味では経営収支の制約からは逃れられない。「都市社会主義」は、実態としては「都市会社主義」である。自治体為政者は、民間企業の経営者と同じような経営才覚が必要になる。国レベルの「一国社会主義」でも同様であり、国自体を民間企業の経営者と同じように経営しなければならない。それができないならば、資本主義市場経済から切断して、アウタルキー経済圏をつくるしかない。しかし、自治体の場合には、閉鎖経済をつくることはできないから、「都市社会主義」は「都市会社主義」でなければならない。

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