2025.07.25 政策研究
第24回 地域コミュニティと議会
地域コミュニティ政策はなぜ重要か、地域コミュニティにおける「議会の課題」
中川幾郎は、「地域コミュニティに対する行政支援は、市民自治への介入・統制ではなく行政と市民団体との対等な関係をもたらすものでなければならない」とし、「各地の自治体では、この関係について『横浜コード』を嚆矢として、独自のルールや原則を定めており、どれも共通に『対等性』が掲げられている」と述べています。そして、「ルール検討の過程自体も協働で進められており、その内容も進化してきている」とし、例として「奈良市第3次市民参画及び協働によるまちづくり推進計画(2022年4月)」を挙げ、同計画では「対等性、自主性尊重、自立化、相互理解、目的共有、期限設定、公開に加えて、相互補完、相互変革が加わっている」と述べています(中川 2022:31-36)。そして、「社会の人びとがコミュニケーションを重ね、信頼関係を構築する中で生産される『社会関係資本』こそが、現代の地域共同財と考えるべきである」(中川 2022:37-38)と述べています。
地域コミュニティにおける「議会の課題」としては、「行政コード(規定、規則)」を踏まえて「議会コード」をつくり実践することが挙げられます。例えば、自治体に不可欠な「望ましい市民教育」が、自治体政府にとってのみ好都合な「悪い市民教育」にならないように、議会には行政を制御するとともに、議会が自らを自己制御するコードが必要です。
さらに、より根本的には、地域コミュニティないし市民個々が、コミュニティにおける議会制御や行政制御を行い、さらには議会や行政が市民参加のもとに、コミュニティにおける地域コミュニティないし市民個々を制御することが重要です。換言すれば、トータルに見てそれらのことを「自治体コード(仮称)」として定め実践することです。
議員にも信頼できる後継者づくりが求められる
阿部昌樹は、地域の実態の「地域自治のユートピア」からの乖離(かいり)は、次の2点において顕在化していることを指摘しています。「一つは、『市場』を媒介として地域に提供されるサービスと、自治体の行政組織をも含む広い意味での『政府』が地域に提供するサービスとが、いずれも、かつてほど充実したものではなくなっているという点です。地域内で営業していた商店の閉店や、地域と繫華街や総合病院と結んでいた民間交通会社の運営する路線バスの廃止は、市場を媒介として地域に提供されてきたサービスの縮減であり、地域内に設置されていた市役所の支所の閉鎖や公民館の管理への指定管理者制度の導入は、政府が地域に提供してきたサービスの縮減です」(阿部 2022:59)。
二つ目は、市民の意識が変化しているという点であるとし、「多くの地域において自治会は当然に加入するものであるという意識が市民に共有されている程度は、以前よりも低下してきている……。その結果、自治体加入率が低下し、また、それとともに加入者層の高齢化や役員の固定化が進み、自治会は地域を代表する団体であるとは言い難い状況となっている……自治会加入率の低下はまた、自治会活動の継続に困難をもたらしている」(阿部 2022:59)と述べています。
すなわち、市場と政府のはざまで、市民自らが共同で対応しなければならない課題が増大している一方で、その増大した課題に取り組むべき市民団体は、加入率の低下等により、地域を代表する団体とはみなし難い存在となりつつあり、なおかつ、課題への対応能力を低下させつつあるという認識を示しています。その上で阿部は、現在変わりつつある地域を懸命に支えている人々がまず取り組むべきなのは、自らが暮らす地域で、自らの活動を継承してくれる、信頼できる後継者を育てていくことなのかもしれないと述べています(阿部 2022:64)。ここにいう信頼できる後継者には、様々な特徴のある人がなることが想定される議員も含まれます。信頼できる議員の後継者は、議会や現職議員、そして市民や地域コミュニティ、さらには「主権者教育」推進団体や政党等、多様な主体が育てていく必要があります。
想定外の災害における「連携」「協働」「コミュニケーション」とコミュニティ、災害時は議会にも「即興」が求められる
コミュニティは平常時のコミュニティだけでなく、非常時のコミュニティについても検討されるようになっています。例えば、阪本真由美は、「災害時には、想定外のことが起きます。また、私たちは、災害対策基本法などの法制度上も、地域主体のボトムアップ型の災害時対応が求められています。しかしながら、想定外の災害を地域主体のボトムアップ型で乗り越えるには『連携』と『協働』、組織をつなぐ『コミュニケーション』が不可欠であ〔る〕」(阪本 2025:カバー)と、そのために必要となるコミュニティの重要性を示唆しています。
ただし、災害についての知識・技術・訓練がなくては、地域コミュニティで「即興」(事前の準備なく行動すること)を実現することは困難です。様々な状況に対応できる人材育成が不可欠であること、そのときの状況に合わせて組織を変革させ、若しくは新たな組織を生み出すという「創造性」と「マネジメント力」が地域コミュニティには求められます。
このような考え方は議会にも当てはまります。そのためには、災害発生時にも必要な業務が継続できるように、災害時にどの業務を優先させるのかなどを定める計画である議会の「業務継続計画(BCP)」を踏まえた上で、議会の保有可能な「議会資源」(議会の権能・権限を果たすために必要な議会としての自治体政府資源〔政策資源〕:人員・財源・権限・情報・時間等)と、議会と連携協力する団体等の保有可能な「議会連携資源」(議会と連携協力する団体等の資源〔政策資源〕:人員・財源・権限・情報・時間等)に応じた「即興」で、どの程度実現できるかを訓練することが必要です。
