次に、報告の「コミュニティと行政」(表3)の部分を見ていきましょう。
|
(コミュニティと行政)
現代の生活の場にコミュニティが欠如していることと対応して、行政の側における機構にも住民に対する接点が極めて不備であることが指摘される。従来の行政機構は大局的にみて上意下達を基本とするもので、その最末端には非公式にではあるが古い地域共同体が機能していた時代に適合した体制と云い得るものであった。そして住民参加の認識が一般に高まるにつれて苦情処理機構、行政相談窓口等各種の住民の意向を反映する機構も付加されてきたが、形態として存在してもその実効性はきわめて乏しいものであった。国の行政機構が明確な縦割構造をもち、地方自治体の独自の行政分野が少く、地方段階で行政が総合的調整を行なうことは全く困難で、地域にそのアンバランスがそのまま反映せざるを得ないこと、地域の総合的な要望が各種の行政庁の守備範囲に分割されなければ処理出来ない性格であるにもかかわらず、そのような作業を行なう場が部分的にしか存在しないこと、更には住民の要望を受けとめて行政に反映させる姿勢が一般に微弱であること等がその背景をなしているのである。
即ち行政機構の中に住民参加から生ずる声を取り入れる組織が体系的に確立していないことがきわめて特徴的といえるのである。国民生活が直接行政の担当すべき分野として登場し、社会開発が行政の主要な柱の一つとなったとき、このような機構の欠陥は明瞭となって来た。そして行政が次第に地域社会そのものにふれる必要が増大した今日、旧態依然とした機構を墨守し、画一的発想によった行政が実施されていることは真に寒心にたえないところである。
近時、地方行政の広域化が叫ばれて、種々の具体的提案がなされている。このような動きは地方行政の合理性と能率を高めるものであるとしても、これによって地域社会に向けられる行政が粗放となり住民との対話が失われるようなことがないように万全を期さなければならない。広域行政の積極面は大いに活用されるべきであるが、それとともに行政圏域の拡大は同時に人間生活の地域的最小単位としてのコミュニティからの協力を一層強く必要とするのである。
〔略〕そして住民のコミュニティ形成のために必要な条件を整備することが新たな行政の課題となるべきことに十分の考慮が払われなければならないのである。
国家は国民の集合体であるとともに、コミュニティの集合体でもある。われわれは今日におけるコミュニティ不毛の状態が、人間性を回復し、生活の豊かさを実現するための大きな障害となっている事実を真剣に憂慮せざるを得ない。〔略〕
|
(注)下線は筆者による。
出典:国民生活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会(1969:156-157)
表3 コミュニティと行政
最後に、報告の「むすび」(表4)の部分を見ていきます。
|
むすび
〔略〕今後における社会は、都市化の一層広汎な進展と情報化社会を指向する急激な変化にさらされ、ますます人間性を失なうような変ぼうをとげることであろう。われわれは文明の発展過程が逆に人間から幸福を奪いとるような可能性に対してどのように対処すべきかを真剣に考慮し、生活の場を快適な生命力にあふれたものとするために、自らの手でこれを築き上げなければならない。コミュニティの形成はこのために不可欠な一つの段階である。このためにわれわれは以下の3点が決定的に重要であると考える。
第1にコミュニティ形成におけるリーダーの役割がある。すでにみたようにコミュニティ形成の原動力は地域住民の市民意識である。このような市民社会の基底に潜在している形成力を顕在化させるものはコミュニティ・リーダーの力である。組織化の過程においてはリーダーの如何によってコミュニティの成否が左右されるのみならず、その基本的な性格、発展の可能性までも大きく影響される。従ってリーダーに人を得ることはコミュニティ形成の最大の課題でなければならない。
第2に、このようなコミュニティ形成の努力を支援し成果あるものとするための行政面における対応が必要である。われわれは行政におけるフィードバック・システムの確立、各種コミュニティ施設の整備、情報の提供およびコミュニティ・リーダーの養成が政府の施策として基本的に重要であることを提言した。これらの環境条件整備はコミュニティ形成に不可欠なばかりでなく、その誕生を促進する積極面を有することにも留意するべきであろう。
第3に、コミュニティ活動を成果あるものとするために充実したコミュニティの活動内容をもつことが重要であろう。これはコミュニティの創意と努力により一歩一歩築き上げられるべきものであるが、その目指すところはいずれも人間性ある快適な生活の場につながるものである。
これがコミュニティの側からの努力のみに止まらず、行政の側からのきめ細かい施設と手をつなぐことにより、従来の計画方式とは異なる新しい町づくりへの道がひらけることになろう。
〔略〕行政とコミュニティとの対話はその主要な役割を果すことになろう。このような計画策定をコミュニティ計画と呼ぶことにすれば、その内容は大要以下のようになろう。
1)生活の場を改善する施設整備
2)生活の場を改善する制度的施策
3)コミュニティ活動に関する情報提供
4)コミュニティ・リーダー等養成計画
即ち、以上の性格と内容をもつコミュニティ・プランはコミュニティ活動の総括的な表現ともなるものである。われわれはこれを「コミュニティのグリーン・プラン」として提唱したいと思う。
本小委員会は、以上のような検討が、コミュニティの一般的成長をみていない現状において具体化に限界があり、また地域的な多様性等残された問題点の多いことも素直に認めざるを得ない。従ってわれわれはこの報告書がコミュニティについての大方の関心を高め、問題を究明深化すべき出発点となることを期待し、また国民生活審議会においても引続きこの問題に関する検討が進められることをとくに希望するものである。
|
(注)下線は筆者による。
出典:国民生活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会(1969:184-185)
表4 むすび
ここまで、55年以上前に出された「コミュニティ─生活の場における人間性の回復─」という報告を見てきました。そこには、「人々はある時には孤独を愛し、他の時には集団的帰属を求める」という人間の本質にかかることや、「地域市民の相互信頼」や「行政と市民に求められる対話」という人の生活にとって重要なことが述べられています。