2025.06.25 政策研究
第23回 「話し合い」のルールと合意形成
結び
本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で、意識すべきものとして、「『話し合い』のルールと合意形成」と、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。
- 「ポジティブなイメージ」で「優しいコミュニケーション」は、人に勇気や元気を与え社会に良い影響をもたらします。そこでは、具体的には多様性や包摂性の重要性が重視されます。
- 話し合いで効果を上げるためには、言語情報、聴覚情報、視覚情報を効果的に使用することが求められます。
- 聞き手(話し相手)のことを思いやる言語的なふるまいが大切になります。
- 相手によって話し方は変えることが必要です。
- はじめはギクシャクしていた市民との話し方も、機会を重ねるごとに自然な話し方になります。
- 「上下」(社会的距離)と「親疎」(心理的距離)については、議員間のコミュニケーションにおいても当てはまります。
- コミュニケーションは、話し手と聞き手の相互行為です。
- コミュニケーションの機能として、情報伝達と同じぐらい重要なのが、人と人の関係を紡ぐ機能(=対人関係機能)です。
- 日本語の「聞くこと」には、「聞く」「聴く」「訊く」といった三つの意味が混在しています。「聞くこと」は、コミュニケーションの様々な場面や状況や人間関係が複雑に絡み合いながら多様に変化する、柔軟性のある行為として位置付けられます。
- 積極的に聞いていることを示す「聴く」ためには、“尋ねる”“問う”という「訊く」能力が求められます。この「訊く」能力は、議員個人にとって求められるだけでなく、議会全体としても必要となります。
- 議会にとって、「政策過程」を適正なものとするためにも、「話し合い」とそのための「プロセス」が重要な役割を果たすことになります。
- 「個人単位の実践知」と「複数人による実践知」が互いの実践知を高めます。
- 優しいコミュニケーションには、「技能」だけではなく「思い」と「自省利他」が求められます。
- 「優しいコミュニケーション」を行うためには、自分が「心地よく話せる環境」「誤解されずに話せる環境」をつくることが必要になります。
- 異なる諸価値を互いに尊重し合いながら、全方位的な「話し合い」を根気強く行っていくことが求められます。
- 「議員にとって参考になる思考・姿勢」は、二重の構造にあります。
- 「議員の注意事項」は、狭義の「『話し合い』にとっての『議員の注意事項』」と広義の「『話し合い』にとっての『議員の注意事項(=人にとって誰にも参考になる注意事項)』」から構成されています。
- 防災・減災のための話し合いは、平常時から行うことが大切です。
- 防災・減災のための話し合いは、災害時にも行うことが重要です。
- 平常時や非常時の話し合いで、地域の未来と自分は変えられます。
- 地域の未来と自分を変えるためにも、話し合いには十分なプロセスが求められています。
- 「話し合い(聴き合い、訊き合い)」には、その帰結についても予測可能性が高いことが求められます。予測可能性が高くなるには、「話し合いのルール」があらかじめ定まっていることが必要です。
- 評価と見直しを継続してでき上がる優しいコミュニケーションは、柔らかな交渉力と確かな技術力を含んだ「話し合い」となり、議会と様々な主体や客体そして関係者をつなぎます。
- 議会が合議制の議事機関(憲法93条1項)であることを踏まえることが重要です。
- 議会が「必要不可欠」な範囲で、かつ効果が高いものであるかを決定するための合意形成には、「話し合い」が必要であり、そのためのルールが求められています。
■参考文献
◇今井照(2017)『地方自治講義』筑摩書房
◇後藤田正晴(1994)『政と官』講談社
◇田中尚人(2024)「流域治水におけるまちづくりと合意形成」内海麻利=日本都市センター編著『水害多発時代の流域治水─自治体における組織・法制・条例・土地利用・合意形成』第一法規、185〜213頁
◇土山希美枝(2018)「政策議会の政策過程と『争点資源』開発」廣瀬克哉編著『自治体議会改革の固有性と普遍性』法政大学出版局、103〜127頁
◇村田和代(2023)『優しいコミュニケーション─「思いやり」の言語学』岩波書店
◇矢守克也(2011)『〈生活防災〉のすすめ 増補版─東日本大震災と日本社会』ナカニシヤ出版
◇プロの心理学ホームページ「メラビアンの法則」(https://pro-shinri.com/melavian-law/〔2025年6月3日確認〕)
