2025.06.25 政策研究
第23回 「話し合い」のルールと合意形成
防災・減災のために「二つ(平常時、災害時)の『話し合い』」から学ぶ
防災・減災のための話し合いは、平常時から行うことが大切です。災害には、地震・津波・台風・洪水・火山噴火・冷害・干ばつ等の自然災害と、火災・化学災害・原子力災害・交通事故・テロ・戦争などの人為的災害があります。これらの自然災害と人為的災害は地域、国、世界の様々な活動の帰結であると同時に、政治経済環境・社会環境・自然環境の変容に相互に影響を及ぼし、影響を受けています。そのため、いつ起こるか分からない災害の発生に備え、防災・減災のための話し合いがグローバルにもローカルにも常に求められています。
日本にフォーカスして見れば、少子高齢社会を迎えた地域コミュニティにも自治体にも国にも、災害があっても命を落とさないレジリエンスを備えた防災・減災機能を強化するための話し合いが必要になります。田中尚人は、そこには、公民連携、庁内連携、広域連携の三つの合意形成・協働の場が必要になることを指摘しています(田中 2024:186)(表3参照)。
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〈公民連携──「おたがいさま」と「おせっかい」〉 1つ目は、災害時に、どれだけあるか分からない避難所一つ一つに公平に支援物資を届けることは相当難しい。ここは「誰かがやるべき」とべき論を通したり、「誰かがやってくれるだろう」とお見合い状態になってしまうよりも、しんどい時は「おたがいさま」と相手の状況を推し量ったり、時には「おせっかい」になっても、他者の分までやってあげることもあっていいのではないかと思う。このように公民連携の協働の場には、「おたがいさま」や「おせっかい」など、他者との違いを認め合う、心の余裕が大切だ(田中 2024:190-191)。 〈庁内(分野間)連携──線を引かない社会〉 2つ目は、災害だけに特化しない庁内(分野間)連携である。例えば矢守克也が提唱する「生活防災」(矢守 2011)では「ふだん」と「まさか」をともに考える、景観や環境も、あらゆる分野を横断して、自分の暮らしから誰かと一緒に考えるゆるやかな紐帯〔ちゅうたい〕づくりが重要となる(田中 2024:191)。 〈広域連携──閉じつつ開く、新しい貸し借りの関係〉 3つ目は、流域からみた地域コミュニティの自治、他のコミュニティとの広域な関係性、つまり広域連携、例えば都市部と農村部などの上下流連携の構築である。これは、これまでの2つの連携とは違い、一地域内の連携では解決できない「流域治水」ならではのチャレンジ、川との継続的な付き合い方、地域コミュニティに求められる新しい連携の形と言える(田中 2024:192)。地域防災の基本は、自助・共助・公助の有機的な組み合わせであろう。しかし、少子高齢化の厳しい中山間地の疲弊した地域では、「備える」と言っても、できることとできないことがある、自地域だけ見ていては八方塞〔ふさ〕がりのこの状況を打破してくれる可能性があるのが広域連携とも言える(田中 2024:192)。情報化社会になり、遠く離れた地域コミュニティ同士あるいは流域外の地域との連携も可能になったかもしれないが、これには注意も必要である。顔の見える範囲の地域コミュニティにおいて、多様な主体がまちまち歩きなどして、自らが住まう環境として「自分ごと」化した上で、ともにつくるローカルルールを共有したい。流域治水における広域連携では、河川管理者との「貸し借り」のリスクマネジメントも視野に入れ、離れた二地域間で、それぞれのローカルルールの違いを認め合い、自地域だけで閉じないまちづくりをしていく必要がある(田中 2024:192)。普段から顔を合わせる同質性の高い主体によって構成された活動は、目的や手段も共有しやすく結束力も高まるが排他的になりやすい。一方、多様な主体が参加しやすいオープンでイベント的な活動は、一時期の盛り上がりは見られるものの、求心力を失うと長続きしない。この両者の長所を兼ね備えた持続的な活動とするためにも、「閉じつつ開く」協働を目指したい(田中 2024:192)。 |
出典:田中(2024:191-192)から抜粋
表3 合意形成及び協働の公民連携・庁内連携・広域連携
また、防災・減災のための話し合いは、災害時にも行うことが重要です。災害時(非常時)の話し合いからも学び、各主体が連携協力することは大切です。市民や自治体政府(議会・行政)にとっては発災時や復旧・復興時、そしてBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)を実行するときにも話し合いが必要になります。これらの記録と記憶は将来にわたって地域の宝となります。
