2025.06.25 政策研究
第23回 「話し合い」のルールと合意形成
「話し合い」は「聴き合い」「訊き合い」、「訊く」方法
村田は、話し合いは「話し」「合い」であり「聴き合い」でもあると述べています(村田2023:88)。積極的に聞いていることを示す「聴く」ためには、“尋ねる”“問う”という「訊く」能力が求められます。この「訊く」能力(表1参照)は、議員個人にとって求められるだけでなく、議会全体としても必要となります。そして、議会及び議員には、「訊く」能力を身につける努力が大切です。
コミュニケーションである「話し合い」は、ことばのキャッチボールです。会話の相手が受け取れるボールを投げているでしょうか。相手が話しやすいように応答しているでしょうか。相手がより話を展開しやすいように応答しているでしょうか。聞くことや聞き手行動は、村田がいうように、優しいコミュニケーションに直結していることが分かります(村田 2023:93-94)。
このことは、キャッチボールである「聴き合い」「訊き合い」の大切さを表しています。「話し合い」では、相手が受け取れるボールを投げるキャッチボールが大切であり、相手がボールを受け止められないドッジボールをしてはいけません。仮に受け取れないボールが一時的に功を奏したとしても、長続きしないのではないでしょうか。意図的に相手を惑わすボールを投げることも避けなければなりません。コミュニケーションである「話し合い」は、真摯に行われるキャッチボールであることが求められます。
出典:筆者作成
表1 「訊く」方法の例
話し合いにおける「プロセスの重要性」と高まる「二重の『実践知の集約』」
「話し合い」においてはプロセスが重要です。村田は、地域でまちづくりをめぐる話し合いに関わっている人たち(自治体職員、NPOのスタッフ、市民活動グループのメンバー)に、「よい話し合いとはどのような話し合いか」についてフォーカスグループインタビュー(異なる属性の少人数グループを複数作成し、座談会形式でインタビューを実施する調査手法)を実施しました。そして、出された意見を集約する中で「話し合いのプロセス」「話し合いのアウトプット」の両方が評価指標として捉えられていることが分かった、つまり話し合いの結果だけではなく、その結果に至るプロセスも重要であるということが解明されたと述べています(村田 2023:86)。
「政策過程」と「話し合い」と「プロセス」の関係を顧みれば、「政策過程」には「話し合い」が必要であり、「話し合い」には「プロセス」が必要です。自治体において主要な政策主体の一つである議会にとって、「政策過程」を適正なものとするためにも、「話し合い」とそのための「プロセス」が重要な役割を果たすことになります。
村田は、本調査の参加者から出された意見は、長年まちづくりの話し合いに携わってきた人たちの「実践知の集約」であると考えられるとしています。そして、着目したいポイントは、よい話し合いの指標として、一人では思いつかないような意見が出るという「創発性」や、異なる意見や新しいことを知るという「学習」、そして話し合いを通した「変化」が指摘されていることだとしています(村田 2023:86-87)。さらに、他の参加者の異なる意見を「聴く」ことは、より実りある話し合いの実施につながるとしています(村田 2023:88)。
このような村田の認識は、自治体職員あるいは一個人としてワークショップにファシリテーターないし一参加者として参加した、筆者(=田中)の経験からも妥当であるといえます。なお、村田は「実践知の集約」を「長年まちづくりの話し合いに携わってきた人たちの『実践知の集約』」ということで「複数人による『実践知の集約』」と捉えていますが、もちろん「実践知の集約」は個々人の中で、すなわち一人単位でも「実践知の集約」があるでしょう。そこでは、「個人単位の『実践知の集約』」と「複数人による『実践知の集約』」が「二重の『実践知の集約』」として存在することになります。そして、「個人単位の実践知」と「複数人による実践知」が互いの実践知を高めます。
