2025.06.25 政策研究
第23回 「話し合い」のルールと合意形成
コミュニケーションは相互行為であり「情報の非対称性」を減らし「話し手と聞き手の間の相互制御」につながる
村田によれば、実際のことばのやりとりのありようを考察すると、話し手が伝達することがコミュニケーションの中心ではなく、話し手と聞き手が相互に入れ替わり、ことばのキャッチボールをしながら協働して会話を構築していくことが分かり、聞き手の行動の重要性も認識されるようになってきました。そして、その頃から「伝達」という表現よりも、コミュニケーションないしは相互行為(インタラクション)という表現が使われるようになってきました。村田は、社会言語学では「コミュニケーションは、話し手と聞き手の相互行為」と捉えられているとした上で、この双方向の捉え方は、優しいコミュニケーションに親和的であると述べています(村田 2023:24)。
このような考えは、話し手と聞き手の間の「情報の非対称性」を減らす意味でも妥当であるといえます。なお、話し手と聞き手の間では「適正な相互制御」をすることが必要ですが、そのためには、お互いが意図を持ってであろうと過失によるものであろうと、コミュニケーションギャップを防ぐことが求められ、そのためにも「情報の非対称性」を減らすことが大切です。
「話し合い」において重要な「人と人の関係を紡ぐ機能(=対人関係機能)」と雑談
村田がいうように、コミュニケーションの機能として、情報伝達と同じぐらい重要なのが、人と人の関係を紡ぐ機能(=対人関係機能)です(村田 2023:26)。ここでは、優しいコミュニケーションという観点から「雑談」について考えてみましょう。
村田は、雑談には「制度的談話」と「非制度的談話」があるとしています。制度的談話とは、制度的な場面(教育、医療、ビジネス等)で、社会的な(制度上の)役割を担っている人々の間で行われるやりとりのことです。例えば、先生と生徒、医師と患者、課長と課員、店員とお客さんとのやりとりがこれに当たります。共通した特徴としては、達成すべき課題があることや、参加者間にパワーの差があるといったことが挙げられます。一方、非制度的談話は、いわゆる挨拶等の日常会話のことです(村田 2023:27)。
繰り返しになりますが、雑談は人と人の関係性を紡いでいくという観点から非常に重要であり、人と人との関係性を紡ぐことが、むしろ言語使用の主目的だともいえるかもしれません。また、談話の対人関係に関わる機能(交感性)は、参加者同士によって相互的かつダイナミックに構築されるため、雑談か非雑談かの二項対立ではなく、両者を連続性があるものと考えます(村田 2023:29)。本題の前に相手を気持ちよくさせたり、ワークショップのはじめに行うアイスブレイクも、雑談か非雑談かの二項対立ではなく、両者を連続性があるものとして捉える好例といえると思われます。
「訊(き)く」ことを続けることで「もったいないコミュニケーション」を減らす
ここでは、優しいコミュニケーションについて「聞く」という側面から検討してみましょう。まずは、コミュニケーションにおける「聞き手」の役割や「聞き手行動」について考えます。
聞き手行動も視野に入れた研究を踏まえ村田は、従来受動的に捉えられてきた「聞き手」のあり方とは正反対に、聞き手の会話への積極的な関与や、創造的で活動的な側面について言及されるようになってきたと述べています(村田 2023:67)。そして、日本語の「聞くこと」には、「聞く」「聴く」「訊く」といった三つの意味が混在しているとし、そのため「聞くこと」は、コミュニケーションの様々な場面や状況や人間関係が複雑に絡み合いながら多様に変化する、柔軟性のある行為として位置付けられるのではないかと述べています(村田 2023:72)。
例えば、遠慮するなどして上手にコミュニケーションをとることができなかったために、後から考えると「もったいないコミュニケーション」にとどまっていることがあります。このことについては、議員の皆さんも経験済みのことでしょう。「もったいないコミュニケーション」を少しでもなくすためには、「訊く」(尋ねる)ことが有意義です。繰り返し「訊く」ことを続けることで、「もったいないコミュニケーション」を減らすことができます。
