2025.06.25 議員活動
第26回 子どもを虐待から救うためには
弁護士 上村遥奈
子どもを虐待から救うためには。
幼い子どもの虐待事件が後を絶たない。
令和5年度の児童虐待の相談件数は、対前年度比5.0%増の22万5,509件であり、令和元年度からの5年間に限ってみても3万件強増加している。これは、児童虐待に係る社会の関心がより高まり、これまで意識されてこなかった児童虐待の可視化が進んだ結果ともいえ、単純に児童虐待それ自体の件数がこれほどのペースで純増したとは限らないといえるが、それにしても深刻な数字であることには変わりがない。
児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という)が施行されて20年以上が経過したが、親が自分の子どもを虐待したり、せっかんして死なせてしまう悲惨な事件が起きるたびに、何とかできなかったのかと誰しもが心を痛める。
児童虐待を防ぎ、また虐待にあっている子どもたちを救うためには、どのような方法があるのだろうか。
1 児童虐待の原因
児童虐待は、身体的、精神的、社会的、経済的等の要因が複雑に絡み合って起こると考えられており、主なリスク要因としては、①保護者側のリスク要因として、妊娠そのものを受容することが困難である状況(望まぬ妊娠等)、マタニティブルーズや産後うつ病等の精神的に不安定な状況、保護者の精神的な未熟さ等、②子ども側のリスク要因として、未熟児・障害児・何らかの育てにくさを持っている子どもであることや、乳児期の子どもであること等、③養育環境のリスク要因として、経済不安のある家庭であること、親族や地域社会から孤立した家庭であること、単身家庭や子連れの再婚家庭であること、夫婦不和や配偶者からの暴力等不安定な状況にある家庭であること等、④その他のリスク要因として、妊娠の届出が遅いなど妊娠期に通常必要とされる手続の遅滞・未実施、飛び込み出産や医師・助産師の立ち会いのない自宅分娩等が指摘されている(1)。児童虐待の発生防止に当たっては、これらのリスク要因を把握した上で、予防策と有機的に結びつけて対応することが必要であるといわれている。
2 児童虐待の定義
児童虐待防止法は、児童虐待について4種類の虐待行為を定義した。
- 身体的虐待(児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること)
- 性的虐待(児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること)
- ネグレクト(児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による①、②又は④と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること)
- 心理的虐待(児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者(事実婚を含む)に対する暴力その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと)
これらを具体的に例示すると、1.の例として、殴る、蹴る、タバコの火を押しつける、熱湯をかける、冬戸外に締め出すなど、2.の例として、子どもへの性交・性的行為(教唆を含む)、子どもをポルノグラフィーの被写体などにするなど、3.の例として、重大な病気になっても病院に連れていかない、乳幼児を車の中に放置する、適切な食事を与えないなど、4.の例として、子どもの心を傷つけるようなことを繰り返しいう、無視する、他の兄弟とは差別的に扱うなど、である。
3 児童虐待の法的・行政的対応
児童虐待が発生した場合、法的・行政的に対応するための方法としては次の三つが挙げられる。
①虐待の加害者を傷害罪や保護責任者遺棄罪などで処罰する刑事法的対応
警察、検察庁、地方裁判所がこの担当機関となる。
②親子分離などのために親権の制限を行う家族法的対応
民法、家事事件手続法といった法律に基づいて行われる対応であり、児童相談所、家庭裁判所が担当機関である。
③虐待された子どもに福祉的な手だてを講じる福祉法的対応
児童福祉法、児童虐待防止法といった法律や、行政上の通達・指針などに基づいて行われる対応である。児童相談所(家庭裁判所も)が担当機関であるほか、相談窓口としてより住民に身近であり、各種子育て支援などを実施する市区町村などの自治体も大切な役割を果たしている。
①や②に比べ、それぞれの家庭の状況を踏まえたフレキシブルな対応を行うことが可能であり、特に初期的対応として非常に重要なのがこの③である。