2025.04.25 New! 政策研究
第21回 政治と議会・議員
元・大和大学政治経済学部教授 田中富雄
本稿では、「政治と議会・議員」と、これらに関する事項について再考します。そして、その上で政策過程において、これらの言葉を発するときの「自治体議員の発言に期待される含意と政策」について考えたいと思います。
根本経験や姿勢を貫く人生経験は、政治家(議員・首長)にとって大切な経験・姿勢・思考
保阪正康は、歴代首相の中でも評価が高い首相に石橋湛山を挙げています。そして、その理由の一つとして、石橋の人格、識見、そして政治的立場のバランスの良さを挙げています(保阪 2021:4)。石橋のように人格、識見、政治的立場のバランスの良さを身につけ、実践するには、「自分」をしっかりと持つことが大切です。石橋の場合、「自分」をしっかりと持つことができた背景には、宗門という出自、転居・転校、宗教・哲学という専門教育、戦争体験という人生における根本経験(忘れられない経験)を手がかりとしていることがうかがわれます。石橋の約束を守るという姿勢、思想や理念を実現しようとする姿勢、人格や識見を顕在化させる姿勢を貫く人生経験は、このような根本経験から生まれたのでしょう。根本経験や姿勢を貫く人生経験は、広く見れば自由に考えること、寛大な精神を持つこと、問題を現実の生活に即して思考することにつながります。このことは、政治家(議員・首長)にとって大切な経験・姿勢・思考です。
政治では対決より解決、“勇気”と“誠実さ”が地域を変え政治も変える
政治には、「首長vs議員」や「議員vs議員」というような政治家同士の対決ではなく、市民のための問題解決が求められています。もちろん、議員や首長の間で、あるいは議員の間で真摯な議論をすることは望まれるところですが、自分勝手な理屈や対抗心という狭量な心によるやり取りは避けなければなりません。批判や批評はしてもいいけれど、人権保護に関わる事項を除いては、一方的で完全な(100%の)否定はしないという姿勢が求められます。このような姿勢が、政治家である議員や首長の可能性を活かすことになります。
政策の可能性を高くし、実現するには、当該政治家の日頃の行動が知行合一であることが求められます。知行合一を実行するには“勇気”が大切であり、その背景には市民のために応えるという“誠実さ”が前提となります。たとえ小さな政策であっても「塵(ちり)も積もれば山となる」というように、地域を変え、やがて政治(例えば、議会運営)も変えていくのです。
対立や闘争こそが中庸を生み、粗野で強引なよからぬ改革を妨げる
エドマンド・バークが、対立や闘争こそが中庸を生むというように(バーク 2020:76)、政治は対立や闘争のバランスとして中庸を生むという帰結をもたらします。もちろん、ここでいう対立や闘争は、真摯な議論によることが前提となります。例えば、各会派・政党は協定等を結ぶことで政策に中庸を生むことになります。真摯な議論になるためには、「熟慮をもって議論(=熟議)」することが必要になります。熟議することは、選択肢の問題ではなく必然的な政策過程となります。また、バークは、対立や闘争を通して人の気質が中庸を得たものになり、粗野で強引なよからぬ改革が大きな害をなすことを妨げると述べています(バーク 2020:77)。これらのことは、議会内における議員間の議論にも当てはまります。議員間の議論は熟議であることが大切です。
求められる「記録と記憶の継承」と、その「習慣化」
熟議には、「記録と記憶の継承」も必要です。市民だけでなく議員にも、記録と記憶の両方があることが重要です。記録と記憶の両方の継承があれば予見可能性が高まります。「記録の継承」があっても「記憶の継承」がなければ、その継承は活きたものとなりませんし、「記憶の継承」があっても「記録の継承」がないと、時とともに内容が変容したり、その内容の正否が問われることにもなりかねません。
「記録の継承」のためには、文書の作成・保存・管理・公表(公開、提供)が必要です。ここに公表とは外部公表を含みます。管理・公表という仕組みがなければ、勝手に文書を破棄されても、文書があったのかなかったのか存在そのものが分かりません。「記憶の継承」のためには、文書の作成・保存・管理・公表の必要性を一層広めるとともに、出来事のトピックを継続的・定期的に公表することも求められます。しかし、記録と記憶の継承には、「面倒だ」「自分にとってのマイナス面は残したくない」「自分にとってのマイナス面は広げたくない」といった人の習性を超克することが必要です。そのためには、記録と記憶を習慣化することが大切です。
なお、記録と記憶の継承には留意すべき事項があります。一つは、被害を受けたという記録だけでなく、加害をしてしまった歴史も記録し公表しなければならないということです。二つ目は、記録に間違いがあったり、新たな事実が発見されたり生じた場合には、それらの事柄について記録し公表しなければならないということです。