2025.03.25 政策研究
第20回 「メディア」「世論」「情報」「データ」と議会(議員)
松下圭一の自治体議会に対する期待と信頼、そしてそれを実現するもの
松下圭一は2012年の段階で、「《代表機構》としての国会、自治体議会の議員は、立法、その前提となる調査という責任についても、今日、いまだ実質は、その『自覚』すらもない」と述べています。(松下 2012:232)。しかし、自治体に焦点を当てるならば、松下がこのような指摘をする背景には、今日の自治体議会への期待と喚起があるように思われます。松下は、自身の議会研究の成果や先駆自治体議会の取組状況から、自治体議会に期待し、自治体議会を喚起したのではないでしょうか。
このような松下の期待を継続するため自治体議員には、第1に「情報(データ)の取扱い」の訓練と実践をすること、第2に身を慎むこと(例えば、「李下(りか)に冠を正さず」を実践していること)、第3に口を慎むこと(例えば、悪口をいわないこと、大口をたたかないこと、いい加減なことをいわないこと)が求められるのではないでしょうか。このような議員とそのような議員から構成される自治体議会に、私たち市民の期待は高まり、信頼も向上します。
なお、調査の一つとしてアンケート調査がありますが、アンケート調査は質問の内容いかんで回答が変わることがあります。例えば、択一式の場合に「3択なのか」「4択なのか」「5択なのか」によって回答比率が違ってきます。また、専門用語を用いた質問や複雑な質問、質問が大量な場合は、回答率が下がるおそれがあります。回答率を上げるためには、質問に関する事項について、普段から市民への情報提供(議会だより掲載、講演会、意見交換会、議会報告会、YouTube等という双方向を含めたコミュニケーション)を行い、争点化しておくことが必要です。
結び
本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で、意識すべきものとして、「『メディア』『世論』『情報』『データ』と議会(議員)」と、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。
- 放送機関には、「表現の自由を確保する」ことや「健全な民主主義の発達に資する」という目的があります。
- 放送が権力をチェックする「第4の権力(者)」であるという認識及び行動が、放送機関関係者はもちろんのこと、他の権力者(=「放送機関以外のマスメディア」や「第4の権力者以外の権力者」)にも必要です。このことは、議会や議員にも求められます。
- メディアにおいて自主規制は、メリットがあるものの「内部による制御」であり、「不十分な制御」であり混乱をもたらす可能性があります。
- マスコミないしジャーナリストには、問題を構造的に明らかにし、社会と共有することが求められているはずです。このことは、議会や議員にも求められます。
- メディアの多様性と熟成が民主主義を支えます。そして、メディアの多様性と熟成のためには、メディアが地域の問題、国の問題、世界の問題、換言すればローカルな問題とグローバルな問題を偏らずに取り上げることが必要です。このことは、議会や議員にも当てはまります。
- メディアが互いに機能を発揮し制御しうるためには、一方ではメディアの編集が集権的(=全国的)なメディアと分権的(=地域ないし地方的)なメディアが必要であり、他方ではメディアの販売と経営が集権的(=全国的)なメディアと分権的(=地域ないし地方的)なメディアが必要です。このことは、国政や国政政党と自治体議会の関係でも留意すべき事項です。
- 社会にとって必要な「社会的共通資本」としてのメディアをつくることが求められています。例えば、「公権力のチェック機能」や「政策の形成機能」を持つメディアの存在は、極めて重要であるといえます。
- 世論調査の回答者は、「聞かれたから答える」という受動的な姿勢を持ちます。他方、能動的で非代表的なネット世論の回答者は、「聞かれてもいないのに意見を発信する(回答する)」という能動的な態度を持っています。ネット世論は、ランダム(無作為)な意見になっていないという点において世論ではありえません。議会は、このことに留意すべきです。
- 政府(議会・行政)、メディア、ジャーナリスト、マスコミ等には、「ネット世論」が「世論調査における世論」に変容しうる可能性を、常に慎重に見極めることが大切です。
- 適正な政策を理解するためには、それなりの知識が必要です。他方、それなりの知識が不要ないい加減(=「悪い」意味でのいい加減)な政策は、拡散されるおそれがあります。議会には“それなりの知識”を持つことが、政策課題となります。
- 議会は市民のために政策を煩わしくなく分かりやすくし、「輿論」が起きるようにすることが求められています。
- 民主主義とは、一般的に一人ひとりが政治の決定に参加できる体制を指します。
- 政府(議員・行政)は「輿論」「世論」の支持率を気にし、そのため「輿論」「世論」の支持(率)を上げるために、データを使用することになります。
- データを正しく用いることで適正な政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)に近づくことができます。そして、このことは民主主義を成熟させる可能性を高めます。議会には、データを正しく使う(使える)ことが政策課題となります。
- データは想像力を使って解釈することが重要です。
- データ分析と信頼、ないしデータ分析と期待の関係については、データ分析で予測を立てても信頼と期待がないと投票という行動につながらないし、やがてデータ分析は不信と失望に陥ってしまいます。データ分析の過程で議会は、市民や行政から信頼と期待を得ることになります。議会への信頼と期待は、データ分析の実践から始まります。
- 「良いデータ」から生まれた「情報」は、「政策判断の基礎」となります。「政策判断の基礎」は、「政策の結果の予測」につながり、「政策の推進・抑制等の要因(意思決定の要因)」となります。
- どういう目的で、どのようなデータが必要であるのかが、明確でなければなりません。
- 議員には、事実を共有した上で意見を調整し、政策を決定することが求められます。
- 議員には、第1に「情報(データ)の取扱い」の訓練と実践をすること、第2に身を慎むこと(例えば、「李下に冠を正さず」を実践していること)、第3に口を慎むこと(例えば、悪口をいわないこと、大口をたたかないこと、いい加減なことをいわないこと)が求められます。
- 専門用語を用いた質問や複雑な質問、質問が大量な場合は、回答率が下がるおそれがあります。回答率を上げるためには、質問に関する事項について、普段から市民への情報提供(議会だより掲載、講演会、意見交換会、議会報告会、YouTube等という双方向を含めたコミュニケーション)を行い、争点化しておくことが必要です。このことは、議会の政策課題です。
■参考⽂献
◇秋吉貴雄(2015)「公共政策とは何か?」秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎〈新版〉』有斐閣
◇NHK取材班(2020)『AI vs. 民主主義─高度化する世論操作の深層』NHK出版
◇大澤真幸(2019)「ナショナリズムの取り扱い方」堤未果=中島岳志=大澤真幸=高橋源一郎(2019)『支配の構造』SBクリエイティブ
◇ジョージナ・スタージ著、尼丁千津子訳(2024)『ヤバい統計─政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』集英社
◇高橋源一郎(2019)「『本を燃やす』のは誰か」堤未果=中島岳志=大澤真幸=高橋源一郎(2019)『支配の構造』SBクリエイティブ
◇谷原つかさ(2024)『「ネット世論」の社会学』NHK出版
◇堤未果(2019)「はじめに」堤未果=中島岳志=大澤真幸=高橋源一郎(2019)『支配の構造』SBクリエイティブ
◇松下圭一(2012)『成熟と洗練─日本再構築ノート』公人の友社
◇松下圭一(2015)「私の仕事」松下圭一『松下圭一*私の仕事─著述目録』公人の友社