2025.03.25 政策研究
第20回 「メディア」「世論」「情報」「データ」と議会(議員)
「世論調査における世論」と「ネット世論」の特徴
メディア、ジャーナリスト、マスコミ等は世論調査を行いますが、「世論調査における(世論調査による)世論」と「ネット世論」には、谷原がいうように相違があります。世論調査の回答者は、「聞かれたから答える」という受動的な姿勢を持ちます(谷原 2024:35)。他方、能動的で非代表的なネット世論の回答者は、「聞かれてもいないのに意見を発信する(回答する)」という能動的な態度を持っています(谷原 2024:37)。ネット世論は、ランダム(無作為)な意見になっていないという点において世論ではありえません。X等に投稿された意見は、「言いたい人だけが言った意見」なので、すべての人の意見が等確率に選択されているという状況とは程遠い状況です(谷原 2024:37)。これらを整理すれば、表2のようになります。
出典:筆者作成
表2 「世論調査における世論」と「ネット世論」の特徴
ネット世論が非代表的である理由は、ネット世論が必ずしも多数意見とは限らないこと、少数のアカウントによるオリジナルポストが世論形成の大部分を担っていること、ソーシャルメディア上で見ている情報は感情的な言説であることが多いことが挙げられます。しかし、それでも政府(議会・行政)、メディア、ジャーナリスト、マスコミ等には、「ネット世論」が「世論調査における世論」に変容しうる可能性を、常に慎重に見極めることが大切です。
理性的な意見を理解するには知識が必要であり、知識を必要とする「輿論」よりも「世論」の方が拡散されやすい
谷原がいうように、理性的な意見を述べている投稿は、それを理解して賛否の判断をするのにそれなりの知識が必要です。つまりファクトチェックと同様、落ち着いて読まねばならず、拡散されにくいということができるでしょう。したがって、「輿論」よりも「世論」の方が拡散されやすいということがいえます(谷原 2024:218)。
このことは、政策にも当てはまります。適正な政策を理解するためには、それなりの知識が必要です。他方、それなりの知識が不要ないい加減(=「悪い」意味でのいい加減)な政策は、拡散されるおそれがあります。政策を決定するに当たっては、当該政策についてありうる多様な手段の選択肢作成を行い、各選択肢の有効性確認や反作用の認知とその対応策、さらに財源の見通し等を整理しなければなりません。そのため、適正な政策判断を行うことは、市民にとって煩わしく分かりづらいのです。議会には、政策(条例や予算)を決定する権限があります。権限があるということは、責任があるということでもあります。議会は市民のために政策を煩わしくなく分かりやすくし、「輿論」が起きるようにすることが求められています。
政府(議員・行政)は「輿論」「世論」を気にし、支持率を上げるためデータを利用する
NHK取材班がいうように、民主主義とは、一般的に一人ひとりが政治の決定に参加できる体制を指します。国民は政治に参加する権利を持っており、どのような政治的主張も許可されなければなりません。表現や言論の自由が保障され、これによりジャーナリズムは権力者を監視することができます。民主主義国家の多くが選挙で代表を選んでおり、選ばれた代表は市民のために仕事をしなければなりません。代表者が任期中に支持を得られなければ、私たちは次の選挙で別の代表を選ぶことができます(NHK取材班 2020:19)。このことは、政府(議員・行政)が「輿論」「世論」の支持率を気にしていることとつながっています。
そして、政府(議員・行政)は「輿論」「世論」の支持(率)を上げるために、データを使用することになります。ゆえに民主主義の政治過程や行政過程において、政策についての判断の根拠としてデータは市民にとってはもちろんのこと、議員・首長・職員、メディア、ジャーナリスト、マスコミにとっても重要な位置を占めることになります。データを正しく用いることで適正な政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)に近づくことができます。そして、このことは民主主義を成熟させる可能性を高めます。もちろん、データには、根拠となりえるデータ自体の質が重要です。データ自体の質は、データが正しく集められているかということがカギとなります。