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2025.03.10 まちづくり・地域づくり

第3回 防疫は他人事ではない

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 感染者を特定することなく隔離しようとしたのが、2020年2月27日の第15回新型コロナウイルス感染症対策本部の対応であった。「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休校を行うよう要請します」と当時の安倍首相は述べた。私は「木を見て森を見ず」と思った。先人の知恵を探って、100年前の後藤新平が、接触・飛沫感染対策により、コレラから国民を守った事実があり、同じようにすることが有効だと考えた。
 当時、感染者が出ていなかった大田原市においては、休校ではなく、むしろ学校を中心に感染予防教育を徹底することにした。感染を防ぐ予防習慣を、教師と児童生徒が学び、家庭へ伝え、さらに社会へ伝わり、予防意識を高めるべきだと判断した。授業を継続することで防疫意識の高揚と家庭の負担軽減を図った。東日本大震災のときと同じように、学校が児童生徒を預かり、危機管理の拠点として機能を果たした。むろん責任は市長にある。
 教育長と相談の上、感染症への対応を医師会を通じて医師の先生方に指導していただいた。先生方には、児童生徒に効果的な手洗い(20秒以上)、消毒、マスク着用の理由を指導してもらう。児童生徒は、それらを実践して生活習慣とし、各家庭から社会に浸透するように依頼した。市内全ての学校から了解を得た。教育長、学校長の強いリーダーシップがなければ実現できなかった。この結果、大田原市は非常に低い感染率で初期・中期段階を乗り越えることができた。
 当時、滋賀県湖南市長だった谷畑英吾氏は、安倍首相の要請に対して「内閣総理大臣による地方自治への不当な介入であり、土足による蹂躙(じゅうりん)でもある」と指摘した。果たせるかな、休校に応じた学校では、授業の遅れ、失われた子どもの居場所に始まり、家庭や社会的混乱の方が大きく、マスコミでも話題になった。
 2021年に入るとワクチンが開発され、6月頃から接種が開始された。ワクチン配布、接種会場の設定、医師会との調整と、煩雑かつ膨大な作業に対応することとなった。緊急災害時において対策本部と避難・救助対応施設としての利用を想定した新庁舎の1階は、集団ワクチン接種会場として活用でき、建築コンセプトに間違いはなかったことを証明することができた。医師会の全面的協力により回を重ねるごとにスムーズに接種が行われ、医療スタッフと市職員とのコンビネーションもよく、スキルアップしながらいろいろなトラブルを解消し、開業医による個別接種につながった。
 余談になるが、来年放送予定のNHK連続テレビ小説「風、薫る」の主人公のモデルとなった大関和は、「明治のナイチンゲール」と呼ばれた医療看護の女性先駆者である。黒羽藩(現在の大田原市に政庁を置いた藩)家老の娘として成長し、医療福祉の世界で活躍した。このような偉人が、我が郷土にいたことに誇らしさを感じる。吉報は寄稿文作成中に届いた。偶然なのか妙なご縁を感じた。

防疫の習慣化は財政の負担軽減につながる

 事業ごとの支出が期待された成果に結びついたことを説明することで、事業の妥当性を市民に説明することが可能になる。つまり「市長と市民の貸借対照表活用による見える化」だ。
 市民の要請には何でも対応しますという約束は、できない約束をすることになる。憲法は、行政に対し、「福利」を国民に提供することを期待している。福利の福は、幸福の「福」。福利の利は、利益の「利」。何が他人の幸福になるのかを予測できないことに鑑みれば、市民を不幸にしないことが行政の役割となる。市民が稼いだお金を税金として徴収することは、市民にしてみれば略奪にほかならない。税金を安くすることは、市民の懐を肥やし、福利の「利」となる。自治体の長が、向き合うべきは自治体の住人である。大きな金額が国や県から流れてくる。財源を求める自治体にとっては魅力的だ。しかし、自治体は住民からの「ありがとう」を集めるところであり、内閣総理大臣や知事からの「ありがとう」を集めるところではない。
 税として預ったお金であっても、市民から「ありがとう」といわれる使い方をすれば、税を原資としても市民の「利」となりうる。これが市政運営の「妙」であろう。
 2023年5月8日に、新型コロナウイルス感染症が「5類」に移行した。これまでの国内の感染者数は3,380万3,572人、死者数は7万4,694人であった。感染症対策は、個々人では対応ができない。市民が感染症で亡くなることがないようにする感染症対策は、行政の重要な役割である。
 コロナの危機は過ぎたように思われるが、人間同士が殺し合う戦争が再び広がっている。尊い命を奪い合う人間の愚かさ(心の感染症)を覚知し、戦争抑止の行動をとらなければならない。権力と財源を持つ行政は市民を不幸にしてはならないし、損失を与えてはならない。その執行者は、正義感、使命感、精査、行動力、責任説明(会計)を実施することが大切だと思う。
 

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