地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2025.02.25 政策研究

第59回 組織性(その5):組織境界

LINEで送る

自治体の特殊性

 民間企業の場合、組織の存続条件は、比較的に分かりやすい。株主は投資以上の収益を、経営陣は業務以上の報酬を、労働者は労働以上の賃金を、誘因として受け取る限り、組織に貢献する。これが内的存続条件である。他方、納入者・取引先は利益になる限り原材料などを提供する。消費者は、支払価格よりも満足・効用が大きいときに、初めて製品・サービスを購入する。
 自治体など行政・政府機関の場合には、内的存続条件は通常は似ている。首長・議員は何らかのメリットがあるから立候補する。職員は勤務条件が満足できるから、自治体に採用応募し、また、勤務を継続する。誘因が乏しければ、なり手不足になるだけである。議員がなり手不足になり、職員の採用が困難になってきているのは、要するに誘因が乏しいからである。これは民間企業と同じである。
 しかし、外的存続条件は、強制権力を背景にする行政・政府機関の場合には、当てはまらないかもしれない。もちろん、強制関係がない取引先は民間企業と同じで、不利な契約は結ばない。近年、公共事業の発注が不達になっているのは、発注上限価格あるいは予定価格の積算が低いからである。
 ところが、住民に対しては、強制権力によって、誘因の有無にかかわらず、貢献を強要する。例えば、自治体からのサービス面での誘因がないと不満があっても、税金は一方的に徴収される。そこで、理屈上は、自治体も「皆さんの税金はこのようにお役に立っています」と宣伝し、貢献≦誘因であることをアピールする。とはいえ、仮に住民集団全体にとってはプラスが大きいとしても、個々の住民に対して、この条件が成り立つとは限らない。つまり、外的均衡条件は成り立つとは限らない。その意味で、バーナード組織論は、公的組織の境界線を画定するには、非常に役立つ。
 もっとも、住民はある自治体が貢献(納税額など)≧誘因(行政サービスなど)であれば、転出できる。住民以外の人間も同様で、その区域に立ち入らなければよい。このような、「足による投票」メカニズムがあれば、自治体も広い意味では外的均衡条件を満たさざるを得ない。ただし、実際に居住や活動を決めるのは、自治体という組織からの誘因だけではない。むしろ、ある地域に居住したときの、地域全体からの誘因との均衡である。つまり、自治体からの行政サービス(誘因)は貧弱であっても、地域の利便性や地域経済の活力などから、様々な誘因を受けることがあり、その結果として、転入転出を決める。例えば、仕事があるから居住する。自治体の誘因とは全く無関係である。企業からの仕事による給料という誘因に対して、住民は労働という貢献をしており、そこで組織均衡が成り立つ。自治体は、それに寄生して、住民に何の誘因を与えなくても、税金という貢献を徴収する。
 もちろん、自治体の政策のおかげで、企業が成り立っているのであれば、自治体は企業に貢献をしているので、そこでの組織均衡は成り立っているのだろう。実際、企業が転出しないということは、誘因≧貢献なのである。しかし、この場合の誘因も、自治体が提供したものとは限らない。むしろ、実態としては、サプライチェーンや市場という、民間企業同士の組織均衡が成立しているだけなのである。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る