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2025.01.14 まちづくり・地域づくり

第1回 災害と自治体

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⼈災の追打ち

 追打ちをかけたのは、福島原発の爆発により放射能の汚染を受けたことだ。2011年3月15日朝方に福島原発に異変が起きた。後で分かったことだが、4号機の水素爆発である。テレビ画面に映った映像は、まるで原発そのものが爆発し、この世の終焉(しゅうえん)を想像させる事態であった。スリーマイル島原発事故(米国、1979年)やチェルノブイリ原発事故(ソ連、1986年)は他人事で、当時の原子力行政は自らが教祖となった原子力安全神話で人々を洗脳していた。
 実際に原発事故が起きても、何の情報も伝達されない。有効な手立てもなく、放射能汚染の恐怖が日に日に高まっていった。放射能汚染は人災であった。お友達作戦で救援活動をしていた米軍は撤退を始め、外国人の退去が報道された。動き始めた東北新幹線の那須塩原駅には車が押し寄せ乗り捨てられ、大渋滞になっていた。できるだけ遠くに逃げたいとの思いがひしひしと伝わってきた。一方で、震災直後で多くの大人たちは復旧作業に忙殺され家にいない。大田原市には、住民の命を守る使命がある。放射能から子どもを守ると決意した。学校こそ安心できる場所であった。早々に学校は休校にしないと決めた。父兄には登下校時の車での送迎をお願いし、できない場合は集団で、傘を差し、マスクと手袋をして登下校するようにと教育長に指示し、校庭での活動は禁止して状況を見守った。この対応は、同年4月半ばまで続けた。
 数日後、地震に負けない、放射能に負けないと、福島の子どもたちが園庭で元気に遊ぶ姿をテレビで放映していた。大田原市も取材を受けた。人気司会者が「市長の顔が暗いですねー」といって笑っていた。現場の窮状は伝えられないものだと悟ったときであった。
 当初、大田原市は汚染地域としてはグレーゾーンで除染対象区域外であった。隣接自治体が対象区域となり、国の補助を受け大々的に除染が行われていった。市民からは多くの不安の声が上がり、自主的に除染をする幼稚園も現れた。国の補助がないまま建設土木業界の方々が、実費で除染に協力してくださることになった。1年をかけて幼稚園、保育園、学校、公園の除染が行われた。
 この後、大田原市の半分近くが除染対象区域になった。除染基準値が下がったからだ。何とも理不尽に感じたが、国の助成対象になり金銭的負担は少なくなった。

災いを転じて

 震災で被災した庁舎は使用不可能となり、庁舎の機能は約8年にわたり複数の施設に分散した。行政、議会、市民代表を交えて庁舎建設検討委員会を立ち上げ、素案を練った。新庁舎は、災害に強く防災拠点となることが主要命題となった。地震のみならず火災や水害などの災害を受けた後も想定し、市民に役立つ市庁舎を目指した。
 5年後に10億円の基金を積み上げ、現住所に建設すると決定。まさにマイナスからのスタートとなった。翌年度から2億円の基金の積立てが始まる。当然、他の事業にも影響するため震災復旧・復興関連事業を最優先とし、他事業は圧縮・凍結した。経常経費についても、人件費をはじめ大幅な見直しを実施した。結果として復旧・復興が順調に進み、圧縮・凍結事業の効果で財政調整基金が7億円から26億円まで積み上がり、庁舎建設基金も順調に積み上がった。新庁舎の建設は2016年9月から始まり、2018年11月末日に完成し、2019年1月4日から新庁舎での業務が開始となった。総工費は48億円であった。
 新庁舎は、免震装置を備えた構造とし、大空間となる窓口エリアは「荷重が軽く万が一落下しても危険性の低い膜天井」とした。また、執務スペースでの2次被害への対策として、天井自体の剛性を強化した。インフラが遮断されても機能するように非常用自家発電機を設置し、庁舎内一部エリアでは、約72時間の受電を可能とした。新庁舎の1階フロアには、可動壁を設け、3室を一体的に利用することが可能な会議室を3室配置した。災害時には、市民等の一時避難場所として使用し、その後、警察・消防・ボランティアなどの活動拠点として使用することを想定している。

市民の資産を継承する

 2019年1月4日に業務を開始した新庁舎は、このとき市民の資産となった。総務省が指導した大田原市の貸借対照表では市民のものとは考えていない。市民に提供した公共財は、市民のものとするべきである。
 さらに総務省は、公共財に耐用年数を設けて減価償却することを求めている。その資産価値を毎年減少させていく。行政は営利企業ではない。公共財は供用を開始したときと同じ効用を市民に提供し続けなければならない。減価償却累計額を資産から減ずるのではなく、効用を提供し続けるために必要な修繕費を引当て準備することが、将来を見据えた市長の説明責任を果たすことになると考えている。公共財はつくったらおしまいではない。継続して市民の役に立つように備えをしておかなければならない。
 行政が市民に対してできることは限られている。生まれてくることがつらくなるようなツケを子どもにまわしてはいけない。長く生きることがつらくなるほどに、財産に手をかけてはならない。生活環境は感染症と無縁としなければならない。市民に対して提供された公共財に資源を投じ、その継承が適切に行われていることを市民に情報提供することは、「子供にツケをまわさない財政運営」の要であり、交代を前提とする首長の間で継承すべきものである。
 

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