2024.12.25 政策研究
第17回 議案作成と議案審議─〈議案作成・議案審議〉の前提、議案のチェックポイント、議案審議後の対応策
元・大和大学政治経済学部教授 田中富雄
本稿では、「議案作成と議案審議─〈議案作成・議案審議〉の前提、議案のチェックポイント、議案審議後の対応策」と、これらに関する事項等について再考します(なお、次稿以降では、「一般質問」について取り上げる予定です)。
〈議案作成・議案審議〉の前提!
はじめに、議案のチェックポイントを考えるに当たり、その前提となる事項として、「議案作成・議案審議の前提を考えることの有用性」「議案作成・議案審議の前提となる『情報提供(情報公開)』『参加』『連携・協力』」「議案作成・議案審議のための議員・議会の心得、話し合い、共有」「行政のスケジュールを踏まえているか」「必要な知識・情報等があると見込まれるか」「複数選択肢から、どう議案内容になったのかをまとめる」の6項目について考えます。
【ポイント1】〈議案作成・議案審議〉の前提を考えることの有用性
議会、委員会、会派ないし議員個人が議案を検討・作成したり、首長提案議案を検討・採決するに当たっては、有効なチェックポイントがあります。チェックポイントを活用することにより、多少の手間は増えますが、同調バイアス(周囲の意見や行動に同調して合わせようとする傾向(例えば、「場の空気」や忖度(そんたく)))、ジェンダーバイアス(性別に基づいて個人の能力や適性を判断してしまう傾向(例えば、男女の固定的役割分担))、正常バイアス(危険な状況に直面しても、「大丈夫だろう」と考え、適切な行動をとらない傾向(例えば、財政が厳しくとも財政破綻を避けうる、進出した企業はずっと撤退しないという認識))などの様々なバイアスを伴う誤った政策(議案)を防ぐことになります。議案という政策を適正に作成・審議するためには、そのためのチェックポイントが必要となります。
チェック内容は、議案として作成されるまでの議案提案前・議案として提案され採決されるまでの審議中・審議された後(=議決後)のいずれであっても、その内容が市民に公表され、議決前・議決中であれば市民の意見を聴き、議決後であれば市民の評価を聴くことが自治には求められます。市民の立場から見れば、議会の依頼がなくても主体的に評価できる環境が整っていることも大切です。【ポイント2】からは、そのうち議案として作成されるまでの議案提案前におけるチェックポイントを取り扱います。
【ポイント2】〈議案作成・議案審議〉の前提となる「情報提供(情報公開)」「参加」「連携・協力」
議案作成・議案審議を適正に行いうるためには、その前提として「議会としての情報提供(情報公開)と参加」が必要です。その制度には様々なものがあります。例えば、請願・陳情、議会報告会、意見交換会、パブリックコメント、アンケート調査などです(表1参照)。そして、その制度の根拠は、地方自治法等の法律によるもの、議会基本条例等の条例によるもの、議会が定めた規則・要綱等によるものに分類することができます。制度により、法律・条例・規則・要綱等で重複して規定していたり、法秩序に従い総括的な規定を置いていたり、具体的な規定を置いているものもあります。なお、自治体により制度の内容は様々に異なり、特徴があります。これらの「情報提供(情報公開)」と「参加」のない議案作成や議案審議は、自治体政府の意思決定と政策実施が市民の意向と乖離(かいり)した独りよがりのものとなってしまいます。「情報提供(情報公開)」と「参加」の仕組みを体系的に整え、実施し、評価し、見直すことが求められます。
また、「情報提供(情報公開)」と「参加」が機能するためには、「公文書管理」が適切に行われていることが重要です。「公文書管理の制度」をつくったことと、「適正な公文書管理の運用」は別物です。制度をつくっても適正な運用が行われていないことは、往々にしてあります。故意でなくとも、見逃しなど過失によるものもあるでしょう。
さて、望ましい議案作成・議案審議には、関係者等の「連携・協力」も必要となります。抜け落ちた視点を「連携・協力」は少なくしてくれます。そして、「連携・協力」を踏まえた議案作成・議案審議は、審議後の円滑な施行につながります。なぜなら、「連携・協力」は、議案内容についての理解増進や自己化(=自分が関わったことにより自分のものとする気持ち)増進につながるからです。関係者等には、市民の当事者のほかに、自治体政府(議会・行政)の当事者、国の当事者等が該当します。なお、議会事務局は議員のパートナーであり議会のシンクタンクであるととらえることができますが、むしろ議会事務局だけでなく、執行部職員も議員のパートナーであり議会のシンクタンクであるという考えを持って、議会・議員が行動することが適切であるといえます。
出典:筆者作成
表1 議会としての「情報提供(情報公開)と参加」(例)