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2024.11.25 政策研究

第56回 組織性(その2):破綻・再生

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アメリカ連邦破産法第9章

 通常の国では、自治体の経営破綻という発想はあまりない。しかし、アメリカでは、地域の人々が、自治体組織を設立・解散するので、民法法人・商法法人(株式会社など)に近い発想がある。企業が破産(bankruptcy)するように、自治体が破産しても不思議ではない。そこで、破綻法制論として、アメリカ連邦破産法(以下「連邦破産法」という)第9章への関心が高まった(3)。連邦破産法は、破産(bankruptcy)として、第7章「清算(清算型破綻:liquidation)」や第11章「更生(再建型破綻:reorganization)」を並べる法制ではあるが、自治団体(municipality)の「破産」に関しては、第9章「自治団体債務調整(adjustment of debts of a municipality)」と表現されている。
 実は、破綻(insolvent)状態において、破産・清算というよりは、債務調整あるいは、債務の再構成であり、より露骨にいえば、債権者に債権を一部又は全部放棄させることである。債務の重圧にあえぐ自治体も、一部債務を免除されれば、つまり、努力によって返済可能な債務に削減できれば、事業(行政サービス提供)を継続しながら再建することができる、かもしれない。そうすれば、行政サービスを止めることなく、同時に債務返済も進めるという、債権者と住民(サービス享受者・納税者)との両者の利害をバランスできる。もちろん、債権者は債権を一部放棄し、サービス享受者はサービス低下を甘受し、納税者は増税を受容することになる。痛みを分かち合うがゆえに、債務調整が可能だというわけである。したがって、自治体を消滅させることが目的ではなく、むしろ、自治体を継続させることが目的である。
 つまり、自治体は債務を負っても、住民への行政サービス継続の必要性・公益性から、いわば、住民を「人質」にすることによって、全額返済を免れる制度である。その意味では、市場原理による経営規律が、企業ほどには厳格ではないかもしれない。もっとも、民間企業に対しても、破綻してしまえば現実的には債権全額回収が可能ではないことが普通であるから、有限責任の出資者や民間経営者も全額返済を免れることが普通である。その点では、有限責任が明確ではない自治体の方が厳格ともいえる。むしろ、債務調整の可能性・危険性を背景に、全額回収は保証されないという意味で、借り手(自治体)というよりは、貸し手に経営(監視)規律を求めるものであろう。
 連邦破産法第9章でいう自治団体(municipality)とは、いわゆる市町村(city、town)や郡(county)だけではなく、学校区、灌漑組合、高速道路公社、港務庁など、行政・公共サービス提供団体を含む。実際、大恐慌後に連邦破産法第9章が暫定的に制定されたときには、主として灌漑組合が念頭に置かれた。債務調整がなければ、債権者は灌漑組合に全額の返済を求める。そのためには、灌漑組合は組合員への納付金(税金・負担金)を増額するしかない。結果として、組合員が脱退するか破産するかし、組合員からの納付金も減り、ますます灌漑組合が立ち行かなくなる。極端にいえば、組合員全員が逃散又は破綻すれば、借金のカタとしての二束三文の土地が残るだけで、灌漑組合も破綻する。そして、債権者も債権を充分には回収できない。このような事態を回避するために、債務調整が考えられたのである。
 この論理は、アメリカの場合には、いわゆる自治体一般に当てはまる。自治体の債務調整が認められなければ、自治体は債務返済のために増税・サービス削減をするしかない。当然、住民は当該自治体から転出(逃亡)する。もちろん、固定資産税は転居しても当該土地にかかり続ける。売却処分すれば当該住民は負担から解放されるが、固定資産税は購入者の負担になる。それゆえ、そのような土地の資産価値はマイナス(負動産)であるから、土地の買い手はあまり現れない。マイナス又はゼロの価値しかない土地に、固定資産税はかけられない。そして、最終的には固定資産もろとも自己破産することになるから、固定資産税収は上がらず、担保として無価値の土地が市有化されるだけである。また、所得税・消費税に依拠している場合には、転居(逃亡)によって、債務返済の負担から免れられる。こうして、究極的には自治体から住民がゼロになれば、債権回収は不可能である。そこまでいかないとしても、住民が大幅に減少すれば、債権回収はほとんど進まない。住民の退出(exit)があるがゆえに、債務調整という発想が出てくる。

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