2024.11.25 政策研究
第16回 政策の困難性とそれを超克するもの
結び
本稿では、自治体議員の皆さんが政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)における発言で、意識すべきものとして、「政策の困難性とそれを超克するもの」と、これらに関する事項等について考えてきました。そこでは、次のような含意と政策が抽出されたように思います。
- 今日の社会問題に深く関連するのは、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や、無関心によって生まれる無学習による人の劣化です。私たちには、意識的に偏見をなくし、意識的に学習することで、問題を超克することが求められます。
- 災害や感染症などの緊急事態に対応するため事業継続計画(Business Continuity Planning)を策定(見直し)しておくことが議会の政策課題となります。
- 政策は、多くの人々の理想や思想、期待や欲望による多様な営みが長い年月をかけて集積されて形成されていきます。
- 豊かな未来をつくれるか否かは、過去の人々に培われた精神と実践の中で会得されてきたシクミや手法を、未来へ向けてどう生かせるかにかかっています。政策は過去のためにあるのではなく、未来をつくるためにあります。
- 現代においては、社会格差解消の困難性、地方自治実現の困難性、本人・代理人関係の困難性、永続的地球模索の困難性(=地球の限界からの困難性)などから、政策の適正な決定と実施は難しい状況にあります。
- 政策の主体や客体は、市⺠、団体、政府(⾃治体、国、国際機構)と多様です。
- ⾃治体議員・議会には、「政策の悪構造」と「政策の複雑性」を解決する模索が求められています。
- あらゆる主体が政策に使える資源(政策資源)は限られています。
- 自治体政府や自治体政府政策も可謬であるので、謬を極力小さくし、起きた謬を速やかに是正することが求められます。自治体政府が市民に供給できるのはシビル・ミニマムという最低限の水準のため、謬が発生すると余裕がなくて市民を傷つけることにつながります。議会・議員には、シビル・ミニマム政策のさらなる探究(検討)が政策課題として求められます。
- バイアスが無意識的に働き、客観的な現実認識や合理的な判断を妨げることがあり、適切な自治体政策の政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)を実現することが難しくなります。
- 意思決定において「直感」が働くことで、バイアスが生じると考えられています。
- 災害などの緊急時(非常時)において、早急の判断が求められるときには「直感」で判断することもあるでしょう。このようなときに「直感」で判断を誤らないよう、議会・議員には平常時において「熟慮」して計画・政策をつくり、研修をしたり、実践的な訓練をしておくことが必要となります。
- 「政策の困難性」を超えるためには、「自己の確立(欲望の制御を含む)」と「政策の⾃⼰化」が必要です。
- 一緒に時間を過ごすこと(=ともに生きること)で「仲よくなる」ことができるし、「仲よく」なれば愛が生まれ、愛が生まれれば平和が近づくと考えることもできるでしょう。
- 人は覚悟することで、幸せな(=豊かな)人間に近づくことができます。
- 人の「日常の崩壊」という経験の歴史性が、人の関心事である政策にも大きな影響を与えています。
- 「適正な政策も、偏った勢力の存在によって、常に安定し難いもの」となります。したがって、政策を安定させるためには、常に内容のブラッシュアップと後押し行動が必要となります。
- 自治体の政策〈集〉である総合計画に関わる主体(=市民、議員、首長、職員)には、バイアスが様々に絡み合っており、そのバイアスを超克することが求められます。
- 市民は、議会・議員そして議会・議員が生み出した政策に期待しています。
■参考⽂献
◇秋吉貴雄(2015a)「公共政策とは何か?」秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎〈新版〉』有斐閣
◇秋吉貴雄(2015b)「政策問題の構造化」秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎〈新版〉』有斐閣
◇神野直彦(2018)『経済学は悲しみを分かち合うために――私の原点』岩波書店
◇田村明(1989)『都市ヨコハマ物語』時事通信社
◇田村明(2000)『自治体学入門』岩波書店
◇土山希美枝(2020)「資料 松下圭一『習慣について』(第四高校文芸部編『北辰』一五八号掲載)復元と解説」龍谷政策学論集vol.10(1)、1~18頁
◇保坂正康(2021)『石橋湛山の65日』東洋経済新報社
◇松下圭一(2011)「東日本大震災と公共・政府政策」公共政策研究vol.11、6~21頁
◇宮本憲一(2016)『〈増補版〉日本の地方自治 その歴史と未来』自治体研究社