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2024.10.25 政策研究

第55回 組織性(その1):設立・解散

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アメリカにおける市町村解散手続

 日本の自治体について解散の可能性がない点も、アメリカの市町村との大きな違いとされてきた。例えば、ワシントン州の自治体法人の解散手続は、ワシントン州改正現行法典(RCW)第35編「市と町」第35.07章「法人解散(Disincorporation:脱法人化・非団体化)」に基づき、以下のとおりである(8)
 市町は解散(disincorporate:非法人化)できる(第35.07.010条)。解散請願書(petition for disincorporation)に登録有権者の過半数の署名を付して、市町議会に解散請願書を提出できる(第35.07.020条)。市町議会は、市町解散の提案に基づいて、投票告示(election to be called)しなければならない。市町に負債・未払債務がある場合、同時に管財人(receiver)の選挙を命じなければならない(第35.07.040条)。投票用紙は自治体の費用で印刷され、その1行には「解散賛成(for dissolution)」の文字、別の行には「解散反対(against dissolution)」の文字が印刷され、他の別の行には合法的に指名された管財人候補者の名前が印刷される(第35.07.060条)。投票した当該市町の登録有権者の過半数が「解散賛成」票を投じた場合、当該法人は解散したものとみなされる(第35.07.080条)。
 市町解散によって契約上の義務や、合法的に付与された有効な許可状(franchise)に基づく権利が損なわれることはない(第35.07.100条)。市町が廃止されると、その街路・幹線道路は州の管理下に入る。また、その市町を包含する郡の郡理事会(board of county commissioners)の命令により、その地域は新たな道路区(road district)となるか、隣接する地区に併合される(第35.07.110条)。管財人は、資格を得た後、旧自治体のあらゆる財産・金銭・証憑(しょうひょう)・記録・帳簿を所有し、業務の清算手続を行う(第35.07.150条)。旧市町に対するすべての合法的な請求が最終的に支払われると、管財人はすべての証憑とともに最終報告書を監督裁判所書記官(clerk of the superior court)に提出する。管財人の手元に残っている資金は、旧市町が所在していた学校区(school district)の使用のために郡財務官(county treasurer)に支払われ、管財人の管理は終了する(第35.07.220条)。
 なお、人口1,500人未満である町に関しては強制解散(involuntary dissolution)の手続がある。2年連続で定期町議会選挙(regular municipal election)を行わなかった場合、又は町議会選挙で選出された公職者(officers)が2年連続で資格を満たさず、その結果、町行政(government)が機能しなくなった場合、州監査役(state auditor)は郡の監督裁判所に町解散命令の申立て(petition)ができる。申立書には、正当化事実に加えて、確認できる限りの町の資産・負債の詳細な説明を記載する(第35.07.230条)。町内に財産を所有しているか、町内で投票する資格のある人は誰でも、公聴会(hearing)に出席し、申立ての許可に対して書面で異議を提出できる。裁判所が、町が2年連続で定期町議会選挙を実施しなかった、又は定期選挙で選出された公職者が2年連続で資格を満たさなかったために町行政が機能しなくなったと判断した場合、裁判所は町の解散命令を下す(第35.07.250条)。
 町の解散により別形態の秩序に移行する。①裁判所が町に負債及び資産がないと認定したときは、解散命令は直ちに効力を発する。②裁判所が町に資産はあるが負債や債務はないと判断した場合、裁判所は、執行時の財産売却について法律で定められた方法に従って、現金以外の資産の売却を保安官(sheriff)に命じなければならない。売却による収益は、町財務部(treasury of the town)に残っている現金とともに、手続と売却の費用を差し引いた後、郡財務部(county treasury)に支払われ、町が所在する学校区の口座に入金される。③裁判所は、町が現金以外の負債又は債務及び資産を有していると認定した場合、資産の売却を命じ、その売却益及び手持現金を負債及び債務の支払に充てなければならない。④裁判所が町に負債又は債務はあるが資産がない、又は負債及び債務を支払うのに資産が不十分であると判断した場合、裁判所は郡理事会に、負債及び債務が支払われるまで、旧町の境界内にある課税対象資産に毎年税金を課すよう命じる。解散日に徴収された滞納税はすべて、負債及び債務の支払に充てられる。滞納税及び裁判所の命令に基づいて徴収された税金から負債及び債務の支払後に残った残高は、町が所在する学校区の貸方(credit)に計上される(第35.07.260条)。
 このように見ると、市町民(有権者)署名と市町民投票による市町解散が、基本的な形態である。これは、住人の署名による設立請願と、住人投票による承認によって、市町を設立することからすれば、市町民が自らの署名と投票で解散できるのは、論理的に整合的である。もっとも、過半数の署名は相当に高いハードルである。町は人口1,500人未満ということもあってか、選挙執行や公職者資格に疑念の予断が込められて、強制解散の手続があり、さらに、負債が残ったときには課税による回収をし続けるのに対して、市については強制解散がないのは興味深い。市町の任意解散の場合には、基本的には残金があることが想定されている。あるいは、清算手続で債務超過になるときには、管財人は請求者に債務支払を続け、かつ、旧市町民(実質的には課税対象資産保有者)に請求を続けるため、納税者は負債から逃れられない命運にあろう。それを防ぐためにも、市町当局は、基本的に債務超過にならない運営が求められている。納税者も安穏としてはいられない。また、有権者と納税者には微妙な相違がある。

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